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BIZENアングラ・アングラーズ
フライフイッシングとフライタイイングに関する話題など
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Fall Season 1
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 名も知らぬ、
 種種雑多な微細な虫どもが、
 秋の風にあおられて、
 哀れ水面に不時着。
 無数の虫たちが落ち葉のあいだを浮き漂っている。

 風がやんで、
 波ひとつなくなった静かな水面で、
 微動だにせず、
 流れのままに、
 ただ浮いている。

 その様子を仔細観察してみれば、
 どの虫たちも、
 まるで水面のうえに高々とのっかるように、
 爪先だってポッカリ浮いている。
 表面張力のカベをかんじる。

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 アグリーナット18番。

 水面に浮かぶホンモノとは似ても似つかない、
 まるでホコリのような醜いフライ。
 
 ホンモノとの共通項は、
 サイズと、
 水面での「浮き方」だけ。
 このフライもまた、
 水面に浮かぶちいさな虫たちとおなじように、
 表面張力をやぶることなく、
 毛先に支えられたボディが水面に接することもなく、
 水面にのるようにポッカリと浮いている……、

 そのため、
 ちいさいくせに水面のフライがやたらとよく見える。

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 CDCもまた、
 陽の光を透過して「見え方」が変化する羽根素材のひとつ。

 ホコリの塊りにしか見えないグシャグシャが、
 光を透過することで、
 まるで昆虫の半透明な翅のような質感に変身する魔法。

 こんなちいさなグシャグシャだが、
 それを念頭に置いて、
 ボディから突き出るファイバーの量や間隔を調整しつつ、
 かつ水面高くポカッと浮く姿勢を維持できるよう巻く。

 シンプルだけど、
 いや、
 シンプルがゆえに奥が深い。

 そして水面に浮かべると、
 ほのかに光を透過する半透明のちいさな塊りの中心に、
 ピーコックハールで巻いた光沢感のあるボディがボンヤリ覗き見える。
 そしてそのボディは、
 CDCのファイバーに支えられて水面に触れることなく浮かんでいる。
 
 これでっせ。

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 きのう、
 釣りに行ってきた。

 朝方ふっていた冷たい雨がやみ、
 外に出てみると、
 突き刺すようだった晩秋の空気が、
 じんわり緩んでいた。

 小春日和。

 「お、これは……」

 とおもって出かけた。

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 ゆっくり静かにそ~っとウェーディングしながら、
 目を凝らしてライズをさがす。

 水面に浮かぶ落ち葉のジュウタンに隠れるように、
 ポツーンとちいさなちいさな波紋がひろがる。

 水深は膝までもない砂利底の浅場、
 陽の光があたるとすべてが見渡せる透明な水、
 そして微かなライズ。

 そこに、
 ホコリの塊りをそっと浮かべてみれば……、

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 どのサカナも、
 フワ~っと水面まで浮いてきて、
 ポツーンと波紋をひろげて、
 かわらぬ仕草で疑いもなくフライをそっと吸い込んでくれた。

 ゆっくり竿を立てると、
 そんな控えめで微かなライズにもかかわらず、
 グンッと重量感のある手ごたえで……つぎの瞬間ダバダバダバッ!と激しい水飛沫。

 カイカン。

 ともすれば弾かれてしまいそうなほど、
 水面高くポカッと浮いているフライなのに、
 フッキングはすこぶる良好。

 ちいさくて黒っぽく見えるいろんな虫たちが
 「爪先立って浮いている」という状態をこそ、
 彼らがせっせとついばんでいるという、
 なによりの証し。

 このフライが、
 とてもツボにはまっているかんじ。

 超カイカン。 

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 酔いしれるような気分で、
 この静かな小宇宙に浸っていたら、

 正午を過ぎてすぐ、
 冷たい秋風がふきはじめて、
 青空はたちまち鉛色の雲に覆われた。
 まるで、
 舞台に厚い緞帳が降りてきたようだった。

 風にあおられた岸辺の木立がいっせいに揺れながら、
 ザザザーーッと音を立てて落ち葉を水面に落とした。

 水辺から生き物の気配がサーッと消え失せて、
 たちまち無表情になった。

 正味二時間ほどの至福。

 秋が、
 駆け足で通り過ぎようとしているようだ。

 長い冬はもうすぐそこ。

 「さ、仕事だ仕事だ!」
 
 声に出してカラ元気。

 みなさま、
 来シーズン用はたまた額装用フライのご注文などなど、
 手ぐすね引いてお待ちしております。
 どうぞよろしくおねがいいたします。
 
「鱒毛鉤の思想史」ひろい読み
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 かつて、
 「ブロウライン」と呼ばれる釣り方があったの知ってる?

 その原型は、
 かのチャールズ・コットン「釣魚大全」でも取り上げられた、
 いにしえの時代の英国の伝統釣法。

 6メートルもある竹製の長竿に道糸となる絹糸とガットリーダーをつけて、
 その先端に釣り針だけを結んで、
 そこにモンカゲロウの成虫を餌として刺し、
 その軽い仕掛けを追い風にのせて遠方に飛ばし、
 マスがライズしている地点にまで送りこんで、
 風をはらませた絹糸やガットリーダーは常に空中に保持したまま、
 餌のモンカゲロウだけを水面につけてマスに喰わせる。
 という釣り方だったらしい。

 なんでも、
 名人クラスの釣り人は、
 そんな仕掛けで20メートル30メートル先のライズを狙っていたそうな。

 ブロウラインすげえな。
 あるいみ究極のマス釣りだよな。
 
 ちなみに現在でも、
 スコットランドやアイルランドでは、
 ボートからこの伝統的な釣りを愉しんでいるマニアが多数いるらしい。

 ことほどさように、
 英国のマス釣りにおいては、
 いにしえの時代よりモンカゲロウの存在はとても重要だった。

 なにしろ、
 現在ではメイフライという呼称は、
 うたがいもなくカゲロウ全般を指す名前なんだけど、
 もともとメイフライ(May fly)というのはモンカゲロウの愛称だったのだ。

 で、
 ここで素朴な疑問。

 モンカゲロウがマスにガバガバ喰われることになる羽化期のピークは英国でも日本でも、
 6月半ばくらいの季節なのに、
 なにゆえメイフライ(5月の虫)なのか?

 そのワケは……、

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 そんなこんなの、
 些細ではあるけれど、
 常々不思議に思っていた疑問のいくつかを、
 この本によって知ることになった。

 そのたびに、
 ガッテンガッテンガッテン!と、
 ガッテンボタンを連打した。
 
 が、
 ネタバレは野暮なので、
 あえてここでは明かしませんけれど、
 この本、
 たんなるフライの歴史や用語の本だと思ったら大間違いなんやで。
 そんな上っ面だけの浅いもんやないんやで。

 フライフイッシングの長い歴史のなかで、
 のちのち、
 創始者とか、
 革命家とか、
 革新者とか、
 独裁者とか、
 表現者とか、
 たいそうな冠詞をつけられることになった、
 往年の大家たちの新しい思想に基づいて生まれたフライたちの背景と、
 さらに、
 そうやって提示されたアプローチとは意見や嗜好を異にする釣り人たちが、
 各地各国でケンケンガクガクやり合いながらフライフイッシング文化を熟成させてきた、
 その足跡と記録を史実に基づいて淡々と掘り下げ、
 かつ詳細にふり返りながらも、
 各章の行間をこそうかがい読めば、
 そのじつ現在のフライフイッシングにあるいみ辛辣にモノ申しているという、
 ヒジョーにヘビーでデンジャラスでホットな釣りの本……ですか?

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 ドライフライの歴史の檜舞台となった南イングランドのチョークストリーム群にて、
 そんなドライフライ釣りの革命家として頭角を現し、
 晩年は良くも悪くも独裁者と謳われたF.M.ハルフォード。

 そのスタート地点は、
 生粋の生まれながらの釣りバカが、
 「オレはこのようなフライでこうやってマスを釣るのがいちばんエキサイティングでチャレンジャブルでおもろいのや」
 という自分の釣りの嗜好とその愉しみを雄弁に語っていたはず。
 が、
 いつのまにかその偏った嗜好と思想が独り歩きをはじめ、
 周囲から革新者として祭り上げられ、
 教祖として崇めたてられ、
 賛同者からチヤホヤされちゃうもんだから自分もついその気になっちゃって……、

 後年、
 ハルフォードはそうした教祖としての姿ばかりが語られることになった。
 すくなくとも自分は、
 過去に読んだ本などから、
 独裁者としての傲慢が強調あるいは誇張されたハルフォード像しか知らなかった。
 
 だが、
 はたしてそれは、
 ハルフォードが本当に歩みたかったフライフイッシング道なのか?
 それが目指していた高みだったのか?

 ハルフォードが真に愛したマス釣り。
 「コカゲロウやマダラカゲロウなどのちいさなカゲロウにライズしているスレたマスを、ドライフライで水面でこそ狙う釣り」
 さらに、
 そんな釣りの愉しみをもっと深く、
 そして喜びをより高めるためにも、
 その釣り方にいくつかの確固たるルールを自分に課したうえで、
 わざと難易度を高くして、
 しかも、
 それらの流下昆虫をじぶんが納得いくまで徹底的に模倣したドライフライを駆使してまんまと喰わせる……、

 という、
 あまりにも秘めやかで心の内面を向いたマス釣り。

 他者との交流や競争よりも、
 自己の内面と向き合い語り合うことが大切なキモとなる、
 いわば自己完結で孤独な瞑想の釣り。

 そんな釣りにこそ人生を捧げたハルフォードが、
 はたして本当に「お山の大将」に君臨したかったのだろうか?

 好む好まざるにかかわらず、
 他者との交わりの中で生きていくしかないのが人の常。

 望んでなのか?
 それとも望んではいなかったのか?
 我知らず周囲に祭りあげられ教祖として君臨することになった純粋主義者の釣り人生は、
 はたして幸運で幸せな釣り人生だったのか?
 それとも……?

 ともあれ、
 さまざまな矛盾をはらみながら、
 その弱さを教祖として言葉の楯で死ぬまで守り抜いた姿勢にこそ、
 生粋の釣りバカのヒトとしての襟持ちが見え隠れしていたハルフォード。 

 個人的に古典に一方ならぬ興味を抱きながらも、
 じぶんにとってこれまでもっとも理解しがたく、
 もっとも遠い存在でしかなかったハルフォード。

 この本「鱒毛鉤の思想史」のなかには、
 我が憧れのヒーローでもあり先生が多数登場している。
 「影響を受けた勉強させてもらった」と公言してはばからない、
 敬愛して止まないお歴々の大家たち。

 にもかかわらず、
 この本の登場人物のなかで、
 じぶんがもっともシンパシーを感じて、
 はばかりながらもっとも近しい存在として親近感を感じ、
 生身の人間として苦悩する心の内をのぞかせてもらったような気さえしたのが、
 このドライフライの独裁者ハルフォードだった、
 というのは一体全体どういうことなのか?

 な、
 深いだろう?

 でも浅いんだよ。

 この本を読みふけっているたったいまの自分の釣り環境。
 自宅のすぐそこに、
 テキトーなでっかいフライをボーンと浮かべとけば、
 運が良ければ良いマスがガバッと跳びついてくる釣り場がいくらでもある。
 もちろん、
 そのような運まかせ条件まかせ要素の強い釣り場も、
 たしかに魅力的だ。

 けれど、
 
 それよりもなによりも、
 完全フラットなベッタベタの水面で、
 ちいさなヒメヒラタカゲロウのイマージャーだけを気まぐれに吸いこんでいるマスたちに、
 ひたすら翻弄されるピンスポットな場所で、
 ようやく釣れてくれたイッピキのマスがもたらしてくれる、
 あの得難い征服感と達成感に心底酔いしれている……、

 という、
 じぶんのたったいま浸っている釣り、
 いわば「じぶんにとっての旬の釣り」に偉大なハルフォード御大のドライフライ人生を重ねて、
 無邪気に嬉しがっているだけのこと。

 オレ様の思想はいつも軽いのだフェザーウエイト。
  
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 話しを軌道修正。

 なんでも、
 ハルフォードと「ドライフライこそ至高」なその取り巻き連中は、
 「馬鹿でも釣れる二週間」といわれたモンカゲロウの羽化期の釣りを、
 じつは苦々しくおもっていたそうだ。

 羽化したばかりのモンカゲロウのダンにバサッと食らいつく大物。
 これぞドライフライの釣りの真骨頂、
 と言えるはずなのに、
 それは何故なのか?

 いわく、
 この時期はふだんはめったに釣れない大物が、
 モンカゲロウの大量羽化に我を忘れてライズするほとんど唯一の季節。
 なので、
 ふだんはドライフライの釣りなど見向きもしない連中さえもが、
 我も我もと釣り場にドッと押し寄せて大混雑。
 しかも、
 その連中は「釣れさえすればなんでもいい」とうそぶいて、
 眉をしかめるような釣り方で大物狙い。

 そのため、
 本来ならば、
 コカゲロウなどの小さなカゲロウを模したドライフライで、
 繊細かつテクニカルに釣るべき獲物が傷つきスレてしまって、
 釣り場環境が台無しになってしまうではないか許せんぞ!

 という理由で、
 モンカゲロウの釣りを嫌味満載で忌み嫌う向きもあったそうだ。

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 と、
 そのようなドライフライ純粋主義者たちの意見の中心におられたひとりが教祖ハルフォードだった。

 にもかかわらず、
 ハルフォードの模したモンカゲロウ・フライを見てみれば、
 えらい念入りに仔細凝ってますやん気合入ってますやんカッコエエですやん。

 それって、
 どゆこと?

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 そして、
 この本の著者である錦織さんは、
 シェイクスピアの一節を引用して、
 モンカゲロウのスピナー・フォールのイブニングの釣りを引き合いに、
 じつはこの釣りが一筋縄ではいかないところと、
 スピナーが乱舞する暮れゆく川面に、
 ひたすらフライを投じる釣り人の心境を「狂気」として描写されたのであった。

 そ~し~て、
 その文章にいたく釣りごころをくすぐられた自分は、
 おもわず「フレンチ・パートリッジ」2Xロング10番を巻いて、
 そのページの脇にそっと添えるのであった。

 フレンチ・パートリッジ、
 「夕暮れの水面に舞い落ちるモンカゲロウのスピナー」の翅脈と紋様を、
 淡いブルーダンと黒と茶色のコントラストが印象的な、
 本名「レッドレッグド・パートリッジ」愛称「フレンチ・パートリッジ」のウズラ羽根をつかって、
 まことに美しく控えめに表現したモンカゲ・スピナーの傑作古典フライ。
 ただし「巻き人知らず」

 ちなみに、
 カゲロウの成虫をなんで「スピナー」って呼ぶか知ってる?

 この本でそのワケを知ると、
 きっと貴方もガッテンボタン連打しちゃうでしょうね……。

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 さ~らに!
 モンカゲロウの羽化やスピナーフォールにまつわる、
 四方山話しの古典はまだ続きがある。

 このようにチョ~イージーに大物が釣れちゃう、
 というイメージがあった英国モンカゲロウの釣りだが、
 時代の変遷や環境の変化とともに、
 年々羽化量も減り、
 それと並行するように釣り場のサカナもスレッスレ……、
 近年めっきり釣れなくなりました。

 と、
 1900年代初頭の時点で、
 まるで10何年か前の北海道は道東地方の湖のモンカゲ祭りを経験した方が嘆いているのと、
 まったく同じことをおっしゃっているという悶々のモンカゲ事情。

 国はちがえど時代はめぐる。

 その渦中1920年、
 H.T.シュリンガムという人物の「マス釣り 記憶とモラル」という本のなかで、
 思い通りにはけしていかない、
 ままならないことばかりの難しいモンカゲの釣りの一幕が軽妙に語られている。
 で、
 その一節がこの本のなかに引用されているんだけど、
 これがもう絶妙な臨場感、
 身につまされるような共感の想いで読んだ。
 おもろい! 

 んで、
 そんな話しのオチ?に登場するのが……、

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 このセッジ毛鉤だ。

 おっとネタバレ禁物……。

 ここではハルフォードのフライ図版を机の横に置いて、
 ハルフォードのセッジ・スタイルでシマトビケラ風に巻いてみた。

 そしてこのフォルムえらい気に入った。

 ところで、
 なんでカディスのことをかつてセッジって呼んでいたのか知ってる?

 そして、
 そもそもなんでカディスっていうか知ってる?
 
 さ、
 みなさまガッテンボタンのご準備を……。

 と、
 そんな愉しい雑学をも随所に散りばめながら、
 フライフイッシングの「温故知新」をこそ知りたい学びたい、
 さらには「フライフイッシングを通して人の生き方をも垣間見たい」とおもう、
 浪漫ちっくが溢れている貴方にぜひ……。

 人の血が通った、
 それも熱い血潮がほとばしっている稀有な釣りの本だとおもいます。


 
ヒメヒラタ郷愁初秋
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 16番バター色のフローティングイマージャーにて。

 この釣り場のアベレージサイズのニジマス。

 全身筋肉の塊りは、
 秋を迎えてさらにパワーアップ。
 掛けるやいなや、
 跳んで跳んで跳んで跳びまくり、
 そして走る走る走る走るどこまでも。

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 現在たったいまのフライパッチの中身と、
 我がタイイング机の様子。

 当地オホーツク産のCDCと、
 黄褐色や淡い黄色のレーヨン製極細の私家ダビング材、
 同系色のジーロン繊維、
 ダン色やスペックルドバジャー系のコックネック・ハックルなどが散乱している。

 そして、
 ここ数日つかっているフライが並んだパッチには、
 それらの素材をつかって巻いた16番前後のフライばかりが並んでいる。

 ほんのつい一週間まえまでは、
 サイズ6番や8番に巻いたテレストリアルや、
 12番前後の翅アリ、
 あるいはウエイテッドニンフ、
 さらにはファジーなウエットフライなどなどが、
 パッチのなかで乱雑にひしめきあって並んでおり、
 それらをとっかえひっかえ使っていた。

 この、
 いきなりの変わりようはなんなのだ?

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 その原因はこのカゲロウ。

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 ほんのわずか、
 陽の光が当たる角度を変えただけで、
 ウイングの質感がガラリと変化して見えるのが、
 いつも不思議で不思議でしかたがない。
 そしてそんな不思議は、
 光の透過や屈折をフライに取り入れるうえでの、
 またとないイマジネーションの源になる。

 という戯言はさておき、
 この釣り場で初めてこのカゲロウを見たとき、
 おもわず胸がドキリと高鳴った。

 コレ…ヒメヒラタカゲロウちゃうん?

 厳密にいえば、
 ソレにちかい近似種なのかもしれない。

 だが、
 このカゲロウが羽化しているときのサカナの反応、
 サカナに喰われているステージ、
 そして「効くフライ」などなど
 そのほか、
 言葉にしにくい釣りの呼吸や感覚的なところが、
 ヒメヒラタの羽化の釣りとそっくりそのまままったく同じ、
 というところこそが肝心。

 かつて、
 17年前から11年前まで富士山の麓の湧水地帯にすんでいたころ、
 このカゲロウの羽化と流下に反応している尺アマゴの釣りにドップリ首まで浸っていた。
 浸りすぎて、
 生活が破綻しかけたのは甘酸っぱく良い思い出だ。

 あのころ、
 水辺で流した悔し涙はもはや数知れず。
 反面、
 苦労が報われたと歓喜にむせび泣いた嬉し涙はほんの数えるほど。

 厳しい釣りだった。

 銀の延べ棒のような本流尺アマゴたちに、
 徹底的に完膚なきまでに打ちのめされ、
 そしてとことん鍛えてもらった。

 このカゲロウの釣りは、
 じぶんのフライフイッシング生活にとって、
 大げさにいえば象徴的な存在のひとつ。

 あのころ、
 いつも連れだってこの釣りに没頭していたヒデオやリョーノスケに、
 「ビゼンさんのせいでこの川のサカナ、す~ぐスレちゃうんだもんな~」
 シーズンがはじまるたびに嫌味を言われていた。

 先週、
 「この釣り場のニジマスももうすっかりスレッスレですね」
 と近所のコムロさんにいうと、
 「な~にいってんの、それってビゼンさんのせいだよ」
 と言われた。

 そんなところまで同じだ。

 懐かしの麗しの富士山麓時代の近所の釣り場から、
 はるか遠く遠く離れた現在のオホーツク地方の近所の釣り場にて、
 またもこのカゲロウに釣り心かきむしられるとは夢にも思わなかった。

 「縁」があるんだねえ。

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 サーフェイス・フィルムの息詰まる攻防戦。

 「ダニーマ・デビーマ」17番の逆襲。
 十数年ぶりにこのシンプル・ハッチマッチャー・パターンとマジ真剣に向き合っている。

 濡れたボディに張り付いてしまって目立たないけれど、
 富士山麓のあのころ最後の手段だったフィルム・ウイングももちろん搭載。
 水面下にボディがはいると、
 脆弱そのものの短いウイングがフワ~ッとスペント状にひらくのだイヤラシイのだ。

 このフライがあのころとちがうのは、
 現在つかっているCDCがオホーツク産のカモから採った現地もの、
 というだけ。
 ご近所のキムラさんに超スペシャル・サンクス。

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 そして、
 富士山麓の時代に捏造した私家版CDCダンのヴァリエイション「ダン・デ・ライオン」16番、
 ジーロンとモルフォファイバーの特製ミックス・シャックのスパークルダン仕様にて大復活…現在大活躍。

 どうも、
 当地の海千山千のスレッスレ・ニジマスたちは、
 ちじれたジーロン素材の屈折しまくる独特のキラメキと透過光に、
 どうかした瞬間コロッとその気になってしまうようだ。

 これはちょっとした発見だった。

 このへんのところ、
 もっともっと密に時間をかけて実践をかさねて、
 さらなる検証の必要がありそうだ。

 と、
 ワタシの生活はまたも破綻にむかってひた走るのだった。

 ホンマ、
 罪な虫やでヒメヒラタ~。

 あ、
 富士山麓の時代と今とでは決定的にちがうことがひとつあった。
 あのころは、
 もうとにかく寝ても覚めても尺アマゴ釣りと~て釣りと~て狂おしかった。

 しかしいまは、
 寝ても覚めても……、

180924(9)9.jpg

 このイケメン、
 きのうの夕方釣りたてホヤホヤですねん。

 時系列や季節感なぞまるで無視、
 じぶんの気の向くまま、
 そのとき書きたいことを垂れ流す……、
 のがモットーの当ブログにおいて、
 この速報っぷりは異例です。

 立てつづけに二度三度カポッカポッとライズして、
 そのあとしばらく水面はシーンとなって、
 またとつぜん立てつづけにカポカポッとなって、
 またしばらくシーンと静まる……。

 このライズ・サイクルって、
 サカナがヒメヒラタの流下に反応しているときの特徴なのか?

 サカナかわれどライズの様子はまったくおなじ。
 まるで尺アマゴに翻弄され続けたあのころにタイムスリップしてしまったかのようだ。

 ひたすら深~く自分と向き合い問答しながらライズと対峙する極上の瞑想タイム。

 何度も何度もフライを流すタイミングをはかって、
 ピタッとハマった瞬間、
 「カプンッ」 なんつって……。

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 5Xのフロロのティペットに結んだ16番の「ダン・デ・ライオン」を口許にちょこんとブッ刺して、
 まずはダッバンドッバン跳ねまわり、
 そして激走また激走。

 毎回毎回、
 我がリール鳴り響くたびに興奮のルツボ。
 髪の毛が逆立ちそう。

 ああ、
 エエなあ。

180924(7)7.jpg

 ちなみに、
 このイケメンはこのバンク際でライズしていた。

 画面中央に、
 灰色と白の水鳥らしき物体が浮いているけれど、
 これはアタマを水面下にもぐらせてヒメヒラタを貪り食っている最中のカワアイサというカモの仲間。

 このニジマスは、
 まさにコイツが浮いているところでライズしていた。

 このカワアイサ、
 まだ晩春のころ、
 お母さんの後ろをチョコチョコ泳ぎで必死に追いすがっていた雛のころからヨ~ク知ってる。
 付き合いは長い。

 ……すっかりおおきく立派になっちゃって……と感慨にふける関係。

 そしてくしくも、
 ヒメヒラタの集中羽化とライズを発見させてもらったのは、
 コイツのおかげでもある。
 めっちゃお世話になったんですわ。
 感謝しとるんですわ。

 なので、
 息をつめて集中に集中をかさねて、
 シビアなライズを狙っている、
 まさにその渦中に、
 しかもよりにもよってライズ地点の真上で、
 毎回毎回このように間抜け面でのんびりウロチョロされても……、

 なんかねえ、
 心境的に文句言えんのです。

 困ったもんです。

 といいつつ、
 じつはぜんぜん困ってないねんけど……ホンマかわいいてしゃあないねんけど。

 さ、
 それでは本日もこれから、
 題して「ヒメヒラタとニジマスとカワアイサとワタシ」な至宝の時間を過ごしてまいります。

 ごめんなさい、
 釣りばっかしていて……、
 いましばらく……、

 かしこ

 
 
五勝手屋羊羹 from 函館
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 まだ雪代水がガンガン流れていた春のころ、
 ヘビーウエイトなニンフの釣り中心だった季節に、
 あくまでも手駒のひとつとして、
 ヒジョーに気楽に「お戯れ」に巻いたフライのひとつ。

 が、
 フト思い返してみれば、
 本流でも渓流でもダム湖でも湖でも、
 今年の春から現在までに釣りあげた、
 大物と呼べるニジマスのおそらく半数以上は、
 このフライで釣りあげることになった。

 ぶっちぎりなのでございました。

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 もちろんヤングなチャイルドもズコバコいじめたった。

 そんなわけで、
 このフライの目的であった
 「沈没して水面下を流下するビートルを模したナニソレ」という当初のスタート地点からも遠く離れて、
 現在では、
 なにを模したというわけでもないけれど、
 サイズやウエイトやバランスなどをマッチさせれば、
 当地オホーツク地方の各釣り場で季節や条件環境問わず、
 たいていどこでも良く釣れる、
 ときにメチャ効きの水面下ファジー系アトラクター・フライとして急成長急発展したのだった。

180919(10)10.jpg
 ちなみにコチラは、
 初夏のころからダム湖や湖でつかっているヴァリエイションのひとつ。

 もともとコガネムシの類を表現していたはずのフライが、
 ところ変われば湖底を蠢くヒルや水生昆虫やカジカ的イメージに変身するとはコレいかに?

 これをさあ、
 湖流を読んで湖底の変化を把握しながら、
 ポチャッと水面に落としてフワ~ッと狙ったピンポイント目指して沈めていくわけ。
 沈むフライに引っ張られるカタチで、
 水面に張り付いているリーダーがジワジワッと沈んでいく。
 んで、
 読みとイメージが的中す・る・と・・・・・、
 水面をジワジワしていたリーダーがいきなり「ツーンッ」と鋭く引きずり込まれて・・・・・・・、
 このアタリをビシッとあわせてドンッ!とくるの…もう最高に快感。

 が、
 ヒジョーに悩ましい問題がひとつあって、
 ジーロン系のヤーン素材をつかったフワトロ・ボディなソフト質感は、
 あまりに口当たりが良すぎるのかツルッと飲み込めちゃうのか、
 とかくフライが口中奥深くに飲み込まれてしまいがち。

 リーダーでアタリをとるスタイルならまだマシだけど、
 インジケをつけたルースニング的アプローチだと、
 かなり頻繁にガッポリやられちゃう。
 なのでときどき後味がとても悪いこともある。

 それにくわえて、
 いろんなヴァリエイションをせっせと作って、
 いろんな釣り場でさまざまなアプローチでつかっているとはいえ、
 このフライにばかり頼っているとマンネリ感も漂ってきて……、

 そんなこんなで、
 このフライはここ最近ちょっと封印気味。

 だったのだが……、

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 おそらく、
 数日まえにこの場所を歩いたのであろう、
 足跡の大きさから察するにまだ若いヒグマの足跡の横を通り過ぎて、
 上流へと歩くいつもの函館の吉田さん。

 話しはガラッと変わるけど、
 オレ、
 さいきん常々ひそかに思ってたんスよ。

 ウェーダーとウェーディングシューズの「早脱ぎ早着替え世界選手権チャンピオンシップ」ぜったい出場したいなって。
 オレ、
 誰にも負けねえぞと、
 「世界のてっぺん、獲ったるデ!」なんて、
 内心めっちゃ自負してたんスよ。

 でもスイマセン調子こいてました。

 函館にいたころ、
 吉田さんとはあんなにあちこち釣りにご一緒させてもろたというのに、
 コチラに越してきてから一緒に行くのひさしぶりだったもんで、
 このお方の超早技、
 すっかり忘れてました。
 
 釣り場に到着して、
 クルマを降りたとおもうと、
 アレと気がついたときには、
 もはやすでにお着替え身支度完了の吉田さん。
 悠々と釣りざおのガイドにラインを通して、
 さっさとティペットにフライを結んでおられます。

 しかも、
 バタバタ急いでいる様子なんか微塵もなし。
 むしろのんびり。
 
 このヒトにはかなわねえ……。

 常日頃、
 どんな世界でも、
 どんな分野でも「上には上が必ずいる」
 そう確信していたつもりなのに……。

 井戸の中のカエルと厚顔無恥を晒すほどイタイタしいものはないって、
 いつもつくづくおもっていたのに、
 調子こいて思いあがっていた自分がトテモハズカシイ。

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 ちょっと来ないあいだに、
 川はすっかり初秋の様相。

 森のたたずまいも、
 川の流れも、
 夏から秋へと移り変わろうとしていた。

 川面には、
 水面にも水中にも落ち葉が絶え間なく延々と流れており、
 それが浅瀬に堆積しつつあった。

 「このポイント、見た目はショボイけど、ヒラキのところにいつもやる気満々のおっきいのが定位してます。
 ソ~ッと近寄って、あそこらへんにバーンと大胆にフライ投げ込んで果敢に流してみてください」

 「わかりました。フライはコレでもいいですか?」
 と、
 シマシマ模様なラバーレッグ搭載のタランチュラ的パラシュート8番くらいのを差し出された笹尾さん。

 「バッチリです!ここのサカナ、ラバーレッグ大好きですから。それ、ぜったいイケます!」
 自信を持って太鼓判を押した。

 ものすごい期待して、
 三人して固唾をのんで水面を流れるフライを凝視。

 その殺気が伝わってしまったのか、
 何度も狙ってみたけれど、
 水面を流れる枯れ葉のあいだを漂い流れたフライには、
 残念ながら反応はなかった。

 そんなわけで、
 このピンスポットをあきらめて、
 上流に向かおうとしたのだけれど、
 いちおう念のために……、

 まったくおなじポイントに、
 しばらく封印していた例のフライをジワ~ッと沈めてフワ~ッと流し込んでみた。

 すると、
 水中に沈んで流れていたリーダーが「ブルンッ」と震えて……、


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 まるで翼のような胸鰭をめいっぱいひろげてカンカンに怒っている美人さん。

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 すべてのヒレがスラリと伸びてシュッとした凛々しいモデル体型。
 この川のニジマスの特徴でもあるゴマ模様をビッシリ全身に散らしてお肌ツヤツヤ傷ひとつなし。

 釣りあげられちゃってプリプリ怒っているところ申し訳ないけれど、
 ほんのちょいの間辛抱してもらって、
 落ち葉のベッドに横たわっていただいてポーズ決めてもらって、
 我が最愛のキュートで小悪魔な6フィート3インチ4番の竹竿とともにツーショット萌え写。

 大満足なイッピキとなった。

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 良き友ありて
 遠方より来たる。


 函館に住んでいたころ、
 筆舌に尽くしがたいほどにお世話になった。
 仲良くしていただいている友人でもあり、
 じぶんにとっては人生の大先輩でもあり、
 そのくせ腹を割って素顔で付き合っていただいている悪友、
 でもあるお二人が、
 連れだって遠路はるばる我が家に遊びに来てくださり、
 この連休を三人でめいっぱい愉しんだ。

 睡眠不足のまま一日中釣り巡ってもうヘロヘロ。

 なんだけど、

 積もる話しと愉しい話題が汲めど尽きない泉のごとく湧いてきた。
 そして川の流れのように、
 あとからあとから言葉が流れ流れて終始ペチャクチャおしゃべりは止まらず、
 軽やかな瀬音のように気持ちが弾んだ。
 そしてなにより、
 小春日和の日の陽だまりのように心がポカポカしていた。

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 フライフイッシングがとりもってくれた大切なご縁。
 
 年齢も、
 環境も、
 社会的立場も、
 なんなら考え方も、
 なにもかもがちがう。

 なにもかもがちがうのに、
 どうしてこんなにも近しい気持ちなんだろう?

 「類は友を呼ぶ」っていうのは、
 つくづく真理だと自分はおもう。

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 なんでも、
 吉田さんが小学生だったころにも、
 道内で記録的な大地震があったのだそうだ。

 そしてその地震がおきたとき、
 おりしも学校で授業中だったのだそうだ。

 「あのとき、先生がイの一番にスッとんで逃げちゃったんだよなあ、生徒全員そのままにして……」
 と吉田さんが言った。

 「そうですかあ、それじゃあ吉田少年はそのとき、大人の身勝手や社会の不条理を学んだんですね?」

 「そういうことだね……」

 釣りを終えて公衆浴場にむかう道すがら、
 そんな話しをした。

 風呂上がりのソフトクリームが、
 たまらなくおいしかった。

 
輪廻転生
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 サヨナラのまえに手尺でパパッとはかって60センチにすこし足りないかんじ?
 泣きのロクマルってとこ。
 
 ひっきりなしに釣り人が往来する人気河川にもかかわらず、
 魚体に傷や欠損がまったくない完璧無比のメスのニジマス。
 も~たまりまへん麗しのベッピン絶品筋肉マダム。

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 この場所にいた。

 一見しただけだと素通りしてしまいそうな、
 見た目いかにもショボイ岩盤滑床の瀬にいた。

 だが、
 マダムがここを根城にしていたのには、
 ちゃんと理由があった。

 対岸の雑木生い茂るバンク際が、
 畳二畳分くらい岩盤がガバッとはがされたように深みになっていて、
 川底には大小の岩や石が転がっている。
 そして、
 そこに適度な流圧の流芯が流れ込んでいる。
 そのため、
 ここを流下する昆虫たちは、
 ほとんどこの深みを通過することになる。
 しかも、
 雑木林のバンク際は深くえぐれていて、
 剥き出しになった木の根っこが張り巡らされた洞窟のようになっている。

 狭い空間ではあるけれど、
 巨体を忍ばせる深みや障害物の隠れ家あり~の、
 エサは追わずとも勝手に目のまえに流れ込んでき~の、
 釣り人はほとんど素通りし~の、
 彼女にとっては理想の棲家だったにちがいない。

 が、

 今年7月半ばのこと、
 そんな彼女の安住の地に、
 下心ムンムンの邪悪な魔の手が忍び寄ったのじゃ。

 上流にある人気ポイントを目指して、
 この瀬をザバザバと急ぎ足で歩いていた魔の手は、
 ふとこのバンク際が気になった。
 それで、
 行きがけの駄賃とばかりに、
 なんの気なしに、
 まったく期待もせず、
 ダラけたムードで、
 2Xのティペットに結んでいたフォーム製の特大フライを、
 ポーンと投げ込んだのじゃった。

 重量級のでっかいフライがベチャッと着水したその刹那、
 揺れ流れる波間のしたで、
 グラッと赤紫色に見えたでっかいのがフライにむかって浮上しそうになったかとおもうと、
 スッと魚体をひるがえしてまた深みに消えていった。

 フライを投げ込んだ立ち位置がすこしでもちがっていたら、
 光の加減や角度で水中のその魚体は見えなかったかもしれない。
 ビミョ~なかんじだった。

 魔の手はつくづく幸運だった。

 …おるやんけおるやんけおるやんけ!!

 しかも、
 サカナのその反応と挙動から察するに相当スレてるっぽいけれど、
 反面かなり喰い気が立ってるっぽい。

 イケル…コレハイケル…ゼッタイイケル…キットデル…

 アレハゼッタイデル!

 確信した。

 そして、

 …まず、
 ここからフライを投げるよりも、
 あっちに立って、
 あそこに投げて、
 フライをこう流して……、

 …さらに、
 掛かっても下流の轟々流れる荒瀬に下られて走られたらおしまいだ。
 きっと岩盤のカドでティペットが擦り切れるか、
 激流に揉まれてバレてしまいそう。
 それはなんとしても阻止したい。
 そのためには、
 あ~してこ~して掛けたらあそこに走ってってサカナを上流に追いやって走らせて……、

 めまぐるしく脳内シミュレーションしながら、
 ジリジリと立つ位置を変えティペットを4Xに変え、
 フライのサイズも落として地味目なのに交換した。

 で、
 一投目。

 岩盤のくぼみにフライが流れていくと……、

 水面のフライにスーーッと一直線に浮かびあがってきた巨体が、
 迷うことなくグボンッと鈍い水音を立てて、
 もうなんとも理想的なかんじでフライを吸いこんだ。

 フライに出た瞬間、
 喉元奥にがっぽり飲み込まれるのがわかるようなかんじ。

 よっしゃ!こ~れはバレない絶対バレない。

 掛かった瞬間、
 二度三度ダッダーンダッダーンッ!と魚体をくねらせながらド派手に跳んだけれど、
 ハリが外れる気はまったくしないので、
 めっちゃ強気の勝負。

 すぐさま下流に回り込んでザッバザバ水を蹴散らしてサカナを上流に追いたてた。

 あっぱれ素晴らしい闘いだった。

 いつもはけして意のままにはなってくれない、
 高根の花と恋焦がれる絶倫筋肉美女をあいてに、
 狙い定めた細心のアプローチも、
 掛かってからの丁々発止なファイトも、
 すべてが計算ど~り!ぱーふぇくと!!

 こんなこと、
 そうめったやたらとあるもんじゃない。

 ムッハーッてかんじ。

 天狗の鼻はにょきにょき伸び放題。
 ボクはいま、
 調子こきまくりのピノキオ状態。

 ゼペット爺さんに叱られそうだ。

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 ほんとにありがとう。

 ヒグマの金毛だけで巻いた、
 我が最愛の、
 絶大な信頼の特製ドライフライが、
 美熟女の口許で鈍い金色(←ココ、キンイロと読むんやなくてコンジキと読んでくれたまえ)に輝いている。

 たまらんなあ……。

 ほんとにほんとにありがとう。

 万物の長すべてに感謝。
 ありがとうありがとう。

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 気持ちがおちついて、
 ふと我に返ってみれば初夏の季節。

 命あるものすべてが輝き、
 生と性を謳歌する初夏の季節。

 深い森のなかを流れる美しい川には澄んだ水が流れ、
 さまざまな鳥たちが盛んに歌いさえずり、
 大中小の蟲どもはひっきりなしに飛び交い、
 木々の緑は鮮やかに色濃く我が胸に迫ってくる。

 すばらしいな美しいな……。

 満たされすぎたココロを持て余しながら、
 夢遊病のように、
 野性の自然にこのまま埋もれていくかのように、
 川のほとりをただそぞろ歩いた。

 もはや釣りなんかそっちのけ。
 きょうはもう充分なのです。

 ワタシ、
 これいじょう釣っちゃったら、
 もうどうにかなっちゃいそう……。

 世俗に戻れなくなったら、
 ボク困っちゃうワハハハハハハ。

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 鳥のさえずりに耳を澄ませながら、
 この岩壁をゆっくり歩いていたときだった。

 木の根っこのところから、
 なにか小さな茶色いものが、
 カサカサと音を立てて、
 崖をころがるように落ちてきた。

 さいしょは落ち葉かとおもった。

 のだが、
 それは小鳥の雛だった。
 幼い未成熟な翼をひろげ、
 ふるえるようにもがきながら、
 崖から落ちてきた。

 …うわ~かわいそうに…

 そうおもって、
 頭上を見上げると、
 目と鼻の先の枝にオオルリ(←wiki)がいた。

 …うっわすげえ!…

 当地ではさほど珍しくはないという話しも聞いたが、
 じぶんははじめて見た。
 いつか見てみたいとおもっていた憧れの小鳥。

 きょうはなんと幸運な日であろうか。

 これ以上はない幸運をかみしめているときに、
 シアワセの青い鳥がすぐ目の前で盛んにさえずっているなんて。

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 だが、
 様子がへん。
 
 目のまえに自分がいるのに、
 まったく逃げない。
 というよりも、
 ぼくの存在に気がついていないかのようだ。

 すぐそこの木の根っこや枝に飛び移りながら、
 さえずるというよりも、
 甲高い声で鳴き叫んでいる。

 そして、
 数羽のオオルリのメスとおぼしき茶色の小鳥もまた、
 その周囲でさわがしく鳴いていた。

 なんだなんだ?

 不思議におもって、
 その様子を眺めていたとき、
 視界の隅に映っていた木の根っこが、
 ズルッとうごいたような気がして、
 ハッとそちらを注視すると、
 そこに大きなアオダイショウが這っていた。
 こんな太くて長いヘビは久々に見た。

 とつぜん崖から雛鳥が落ちてきたこと、
 オオルリが逃げもせず鳴いていること、
 これで謎は解けた。

 オオルリの雛を襲うべくジリジリ巣に近づいているアオダイショウ。
 それに驚き恐怖した雛鳥が巣から転がり落ちてしまった。
 親であるオオルリは盛んに警戒音をだしているが、
 アオダイショウのまえにはなすすべもなく……。

 これはたいへん、
 すぐにヘビをどかしてやろうと、
 アオダイショウに近寄って手を伸ばした。

 が、
 ズリッズリッと木の根っこのうえを這うアオダイショウを見た瞬間、
 掴もうとした手をおもわず引っ込めてしまった。

 マムシなどの毒蛇は別として、
 ヘビを掴むことなんか自分にとって子供のころから造作もないことだった。
 むしろヘビを見つけたら嬉々として捕まえたい爬虫類大好きっ子。

 だが、
 オオルリ同様に、
 ぼくの存在などまったく無視して、
 ゆっくりと這っていくこのヘビを捕えることは躊躇してしまった。

 まじまじとヘビを見た瞬間、
 じぶんの奥底にあるなにかが射抜かれてしまったようだった。
 魂が抜かれてしまったようだった。
 心底ゾクッとくるものがあって立ちすくんでしまった。
 触れられない…とおもった。

 それほどまでに美しいとおもった。
 
 いや、
 その表現は適切ではない。

 いつ出会えるとも知れない久々の獲物をまえにして、
 興奮の極に達しているアオダイショウの身体は、
 深く暗い玉虫色にギラギラ底光りしていた。

 その輝きはどこまでも妖艶で、
 得体のしれない妖気と精気に満ち満ちていた。

 山仕事にいそしむいにしえの昔人が、
 伝説の大蛇をまえにして、
 大蛇が発する妖気のオーラにあてられて気がふれてしまった、
 などという昔話の源泉を見た気がした。

 おとぎの世界に迷い込んでしまったようだ。

 もはや、
 大切な雛をアオダイショウに喰われるしかないオオルリも必死。
 だが、
 アオダイショウもまた、
 生きるために必死だった。
 
 そんな光景を、
 生きるのにまったく必死ではない自分が、
 なにもせず、
 どうすることもできず、
 ただ、
 呆然と眺めているだけ。

 外の世界など、
 なにも知らなかっただろう雛鳥が、
 ぼくの足元で立ちすくみ、
 ただ震えていた。

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 そして、
 夏の陽が、
 ゆっくり暮れていった。

 いつもとおなじように。


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