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BIZENアングラ・アングラーズ
フライフイッシングとフライタイイングに関する話題など
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納涼ゲゲゲのオホーツク
 8月のはじめ、
 ここオホーツク地方も、
 想定外の連日の酷暑にうんざりしていたときのこと。

 そのダム湖のクルマ止めの対岸は、
 うっそうと生い茂る森が、
 崖のような急斜面の湖岸ギリギリまで迫っている。

 湖岸には、
 夏のいまを盛りにワッサワサ葉っぱを茂らせた木々の枝が湖面に低く高く張り出している。
 
 竿を振れる場所はおろか、
 足場が狭すぎて湖岸を移動することもままならない。
 
 はるか遠目に見える岸際ぎりぎりの重々しく激しいライズの水飛沫が、
 いつもなんとも切なく恨めしかった。

 ……行きたい……あそこまで行ってフライ浮かべたい……。

 切実にそう願いながら、
 その湖岸は長らく難攻不落かつ未知の領域であった。

 この日、
 そのダム湖がかなり渇水していた。
 いつもの釣り場となるインレット付近に立ち込んで、
 静かな水面にフライを浮かべたり沈めたり軽くひっぱったりしてみた。

 渇水して浅くなって勢いのなくなった流れ込みはとても貧弱。
 サカナの反応は皆無だった。

 しかし、
 はるか彼方の湖岸はたいへんにぎやかだ。
 岸際ぎりぎりの倒木の際や水面にはりだした大木の枝の下で、
 かなりの頻度で水飛沫があがっている。

 ザバッ!なんつって……。

 切ないっていうよりも、
 なんかこのナマ殺し状態に業を煮やしてしまった。

 テレッと流れる減水した流れ込みは、
 ベストの裾を濡らすだけで無事に対岸に渡ることができた。

180901(1)1.jpg

 ライズ地点を目指して、
 おっかなびっくり湖岸を歩きだしてみる。
 岸際は足元からストーンと切れ込むようにほぼ垂直の岩壁でドン深。
 青々とした水の底はまったく見えない。
 
 岩盤質の湖岸はでこぼこで、
 ちいさな岩のでっぱりとか、
 埋まった石なんかが水際に点在している。
 そこに足をかけて、
 湖面にはりだしている枝につかまりながら進んでいくと……、

 なんか、
 けっこう行けちゃうかんじ?

 これは大発見だと枝をかき分けながら奥に突き進んでいくと、
 なんだか周囲の雰囲気というか空気がガラッと変わった。

 湖面にはりだした木々のトンネルのしたは、
 風通しがすこぶる悪く、
 さらに炎天下の熱射にカッカと照りつけられている。
 薄暗い日陰なのに、
 ナマぬる~く熱気と湿気を含んだ空気が澱んでいる。
 
 水際に堆積した泥がズルズルネチャネチャ足元をすくいヒヤッとさせられる。

 しかも、
 ズルッと滑ってヒヤッと冷や汗をかいたところに、
 蚊とかアブとか無数の微細なウザくて痒い虫がブワンブワンたかってくる情け容赦なく。

 なんしかイロイロものすごく不快。

 しかし、
 こうして湖岸をじりじりと進んでいるあいだにも、
 あそこの倒木の下の水面では、
 ザバッ!
 ザバッ!
 と水飛沫。

 奮い立つじゃん、
 行くしかないじゃん、
 まっとれよ、
 と思うやん。

 かくして、
 しゃがんで背中丸めてサイドキャストすれば、
 左利きならどうにかアプローチできそう……かも?
 という地点にまで近寄ることができた。

 そ~っとしゃがんで、
 リールからラインだして、
 チャンスをうかがう。

 とつぜんグワボンッ!!とすごい水音がして、
 水面がグワッとへこむように揺れながら、
 ドバッと水飛沫があがった。

 遠目に焦がれるような気持ちでずっと見ていたこのライズ。

 目と鼻の先で、
 射程距離から見たそのライズは、
 そりゃあもう迫力満点だった。

 そして、
 これは出る……そうおもえた。

 が、
 いざ勝負、
 と勇んでみれば、
 案の定、
 頭上ぎりぎりに高く低く張り出した木々の枝が、

 ブチ切れるほど邪魔!

 四苦八苦してどうにかこうにかフライを水面に浮かべたが、
 ライズ地点よりやや手前。
 だが、
 これがいっぱいいっぱいなので、
 このまま待つ。
 ジーッと待つ。

 まったく出ない。

 そして、
 あれほど頻繁にドバッ!とライズしていたのに、
 フライを投げだしてからは一回もライズしてくれない。

 近寄りすぎて警戒されたのだろうか?

 しかし、
 ここからしか投げられる場所はない。

 ヤツがまたライズするまで、
 待つしかない。

180901(2)2.jpg

 背後に生えているフキの葉っぱを泥の湖岸に敷いて、
 そのうえに座って、
 夏草とフキの葉っぱのなかに埋もれて、
 膝を抱えるような格好で、
 背中を丸めて待つ。

 一心に水面を見つめながら、
 ……来い……来い……とひたすら念じながら、
 息を殺して待つ。

 そのときだった。

 背後の、
 鬱蒼と生い茂る深い森の奥で、
 カサ・・・カサ・・・カサ・・・とかすかに何者かの足音がきこえる。

 耳をすませると、
 なんか、
 なんか、
 なんか、
 こちらに近寄って来てるんですけどウッソマジで?

 おそるおそる背後をうかがっても、
 森の奥はなんにも見えない。
 草木も揺れない。
 でも、
 カサ・・・カサ・・・カサ・・・
 足音は確実にこちらに近づいている。

 もちろん一瞬クマ?とおもいキンタマがキュッとちじみあがった。

 が、
 足音はとても軽い。
 重量感は感じさせない。

 シカ?
 それなら脱兎のごとく逃げていくはず。

 なんだこれ?
 キツネ?
 タヌキ?
 そ~だそれなら納得そうに決まった。
 ボク、
 ゼ~ンゼンこわくないもん。

 にしても、
 カサ・・・カサ・・・カサカサカサ・・・

 もはやほとんど自分の背中の真後ろで響く足音。
 こんな、
 身動きすらままならない場所で、
 なんか、
 薄気味悪さがどんどんつのってくる。

 ちょっとお…しつこいのとちゃう?

 いいかげんムカつくでアッチいってんか。

 いや、
 ムカつくのとおなじくらいメッチャうすら怖い。
 しばくどワレ~…もうこのへんでゆるしてくださいませんか?。

 「あの~、ボクここにいるんですけど~」

 たまりかねて、
 森の奥に大声で呼びかけてみた。

 すると、
 竿先でつつけそうな、
 ほんのすぐ目の前の草藪のなかで、
 カサカサ……
 と足音がして、
 何者かが森の奥に消えていった気配がした。

 うっわそんなとこにおったんや!とブルッと軽くトリハダがたった。

 しかし姿は全く見えない。
 これがもう不気味で不気味で……。

 そして、
 足音はようやく消えた。

 とはいえ、
 ライズはまだいっこうにない。
 サカナの気配もない。

 でも、
 ボクもう悠長におサカナがまた来てくれるの待ってらんない。

 せっかく苦労してここまで来たんやから、
 釣れないまでもせめて水面にフライを浮かべたい…、
 という切なる釣りごころと、

 もうヤダこんなとこ…はよ撤退したい。
 というヘタレごころが、

 胸の奥ではげしく交錯しせめぎあう。

 せめぎあったが、
 けっきょく、
 フライは水面に浮かんだ。

 この状況ではむやみやたらにフライを打ち返すのはトラブルの元。
 そしてサカナを警戒させるだけ、
 とにかく待つのだ……と肝に銘じて、
 水面のフライをひたすら凝視。
 視線と気持ちと欲望のすべてを集中させる。

 そうやって、
 どれくらい待っただろうか?
 
 なんの変化もなく、
 フライはひたすら水面を浮き漂っている。

 打ち返そうかな、
 どうしようかな……、

 心が揺れていたときだった。

 背後に、
 なんかほのかな気配がして……、

 ハッとうしろを振り向くと、
 ほんのすぐ目の前の湖岸に、
 全身をサランラップでくるんだようなテカテカ艶光りしている真っ黒な塊りがドテッと横たわっていた。
 
 大きさは、
 キツネほどもあっただろうか。

 え?
 なにこれ?

 そのとき、
 その物体からヌ~ッと長い首が伸びたかとおもうと、
 唖然としている自分とバッチリ目と目があった。

  うっっわっ!!

 おもわずずっこけ腰が抜けたようになって尻がズルッとすべった。
 ウェーダーも竿も両手もたちまち泥まみれ。

 その瞬間、
 真っ黒な塊もまた、
 のけぞるような態勢になって驚愕の表情を浮かべると、
 そのままズルンッと身体を滑らせるように音もなく水中に潜っていった。

 キミは、
 くっそビッチなミンクの驚きふためいたナマ顔を間近で見たことがあるだろうか?、
 まるでムンクの名画「叫び」そのもの。
 わろてまうでホンマ。

 ふってぶてしいっちゅうかクッソ生意気ちゅうか、
 わっるいツラ構えしとんでミンク。
 それがクワッと口あけてアホみたいなビックリ顔晒して、
 そのくせこちらを小馬鹿にしたような態度で、
 ズルルルルンッとウナギ犬みたいな身体を滑らせて、
 水飛沫もたてず一瞬で水中に消えていった。

 そして全身脱力、
 なんだよミンクかよ~。

 そのときだった! 

 背後でガボンッ!

 え?

 ふりかえってみれば、
 大きな波紋とともに、
 我がフライが水面から消え去っておるではないか!

 うっっわ!

 おもわず竿をグイッとあおった。
 ググンッとたしかな手ごたえ。
 やった!

 が、
 リールや竿についた泥がビチャビチャッと飛び散り、
 顔や首にベチャッとかかった。

 それはまあいいとしよう。

 最悪なのは、
 事前にあれほど掛ってからのシミュレーションをしていたにもかかわらず、
 おもいきり竿を立ててしまったので、
 頭上の木の枝に竿先とラインがガッツリ絡みついてしまった。

 ど~すんのコレ?
 ラインが絡んだ小枝がサカナにひっぱられてグングン曲がって揺れている。

 なんとかしなければ……、
 立ち上がった瞬間、
 ズルッとすべって泥のうえにモロに尻もち。

 もはや全身グッチャグチャのドッロドロ

 負けるもんか、
 ラインをガガガと力任せにひっぱって、
 木の枝ごとむしりとり、
 ロッドを背後に放り投げて絡んだラインをほどこうとするも、
 グルグルに絡みついてにっちもさっちもいかない。
 
 ラインの先は水中深くに突き刺さっており、
 もはやダルダルにたるんでいる。

 嗚呼無情。
 せっかく掛けたのに外れてしまったか……、
 
 が!
 そのラインがギューンと水中を走っていくではないか!

 まだ掛ってる!!!!!

 無我夢中でラインを両手でにぎってそのまま引っ張る。
 グイグイくる手ごたえ。

 まだ掛ってる!!!!!!!

 が、
 さっきまで指をくわえて眺めているだけだった激しく重い水飛沫のライズから想像していた手ごたえとは、
 なんかちがう。
 ものすごい闘いになると予想していたけれど、
 なんか、
 えらい簡単に手元に寄ってくるんですけど……。

180901(3)3.jpg

 サカナに罪はない。
 むしろ、
 釣れてくれたことに感謝。

 なんだけど……、
 
 きっとおそらく、
 狙っていた巨マスは、
 ぼくの存在にすぐ気がついて、
 さっさとどこかに消えてしまったのだろう。
 そして、
 そんなボス不在の一級ポイントに、
 育ち盛りのヤングがコレ幸いにやって来て、
 ぼくのフライに喰いついちゃったのだろう。

 180901(4)4.jpg

 泥まみれで脱力のイッピキにサヨウナラ

 ドロドロのラインと竿を洗って、
 絡んだラインをほどいていると、
 ちょっと離れた場所の水中から唐突にミンクがポカッと浮かんでズルンッと湖岸にあがってきた。
 そしてコチラをチラッと一瞥すると、
 スルスルと森のなかに消えていった。

 ミンクか消えていった木々と藪の奥で、
 カサ・・・カサ・・・カサカサ・・・
 という乾いた軽い足音がしばらく響いていた。

 アホミンクめ。

 アイツのせいでもうふんだりけったり。

 ではあるけれど、
 クククと忍び笑いが気持ちの奥からとめどなくこみあげてきて、
 あ~オレいますっげえたのしい。
 シアワセだな~~とおもった。

180901(5)5.jpg

 この夏の、
 忘れがたい小さな冒険をこのフライとともに……。

 名作中の名作ファンシー・スタンダード「レッドタグ」サイズ10番。

 18世紀の英国で生まれた夢見るファンシーフライは、
 ここ北の大地のサカナたちにも評判すこぶるヨロシ。

 浮かせても、
 沈めても、
 漂わせても、
 軽くひっぱっても、
 夏のボクらをシアワセにしてくれるフライ。

 

 
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