BIZENアングラ・アングラーズ
フライフイッシングとフライタイイングに関する話題など
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 朝一番で出かけるつもりで準備していた。

 けれど、
 なんやかんやダラダラしていたら、
 正午まえになった。

 街をぬけて、
 海岸線の国道に出る。
 
 なんてことはない、
 ちいさな漁村の集落がつづくこの道の景色を、
 とても気に入っている。

 カーステレオのヴォリュームを目いっぱいあげて、
 レゲエの重低音を響かせると、
 案の定ズッポリはまった。

 国道から目的の川に続いている曲がり角を、
 横目に見ながら通り過ぎ、
 そのまま車を走らせて、
 しばらく音楽に浸った。

080806 (1)1 
 けっきょく、
 川に降りたのは夕方すこしまえ……。
 
 ときおり、
 霧雨のような雨が降っていて、
 川面には微かに靄がかかっている。

 ヤブを漕ぎながら川へおりるとき、
 青くさい草いきれがフッと鼻について、
 夏の気配を感じた。
 
080806 (2)2
 最初のサプライズは、
 おだやかな平瀬の頭に沈んでいた倒木の影から……。

 砂底で、
 膝までもない水深、
 ザバザバ歩きながら投げたフライが、
 倒木にこすれるように流れたとき、
 そのしたから金色に見える魚体がサッと浮かびあがってきた。

 TMC900BLの10番に巻いたグレイフォックス・ヴァリアント。
 フックのゲイプよりも3倍近い長さのハックルが男前。
 さっきからチラホラ見かけていたフタスジモンカゲロウのダン…っぽくもあり、
 絶大な信頼を寄せているサーチング・ドライフライでもあり……。
 
 いい加減な、
 気のないアプローチ、
 完全にドラッグがかかっていたフライにザバッと追い喰いしながら出た。
 予期していなかった出来事にすっかりあわてて、
 我がお家芸でもある電光石火の早アワセ……。

 サカナからハリを外そうとして、
 フライの掛かりどころを見ると、
 口の脇にチョン掛かり。
 フッキングしたのはものすごくラッキーだったことがわかる。

 日が暮れはじめたので、
 今日の目的だったちいさなプールに急ぐ。

 逆光で白く光っている水面に、
 ちいさなライズリングがふたつ。

 (な~んや、あんなのしかいないんや……)

 さっきのイッピキにすっかり満足していたので、
 もうあがろうかと思いながらも、
 小雨もあがっているし、
 気分も弾んでいるし、

 どうせだから……、

 下流の瀬を渡ってプールの対岸に移動した……、

 それが運命の分かれ道だった。

 フライを二回交換して、
 すこし手こずりながらも、
 スポッて感じでフライがちいさく吸い込まれるように水面から消えた。

 ヒョイッと軽い気持ちでアワセた次の瞬間、
 ドスンッと肘に来て、
 ダバダバッと水面が激しく炸裂……。

 まるで夢でも見ているような攻防戦を必死に闘って、
 ちいさなネットに強引にサカナを突っ込むと、
 尻ビレから先が完全に網からはみ出していて、
 ドサドサドサッとサカナが暴れたとき、
 ンバキッという乾いた音がして、
 ネットのフレームが真中から折れた。

 二匹目の巨魚を掬ったとき、
 ネットの折れた部分が、
 サカナの重みで完全に粉砕。
 それでうまい具合にパタンと網がすぼまって、
 サカナがネットからはみ出るのを抑えてくれた。

 「すっさまじいな、ホンマ……」
 うわごとのように繰り返しながら、
 まだ明るいうちに川からあがった。
 
080806 (3)3
 着替えをすませて、
 携帯を見ると着信。

 つい先日、
 いっしょにロードアイランド州を釣り巡ったテッチャンからだった。
 あの旅は、
 ニューヨークで仕事をしている彼の行動力があったからこそ実現したものだ大感謝。

 運転席に座って、
 さっそくテッチャンに電話をかける。

 ふとフロントガラスに目をやると、
 そこにアマガエルがチョコンと止まっていた。

 「テッチャン?、まいどまいどまいど~。どないしてるん?」

 「いまねえ、仕事で上京してるんですわ~」

 「そうなんや、おつかれ~。どう?、みんな元気にしてるん?」

 ロードアイランド州在住の心やさしき釣りバカ部隊の面々の顔が、
 懐かしくてしかたがない。

 「ケニーがねえ、言うてましたよ。アイツ、秋にまたコッチに来られへんのかって……」

 「マジで?、グハハ」

 「秋になれば、どでかいストライパーも岸に寄ってくるし、青物も接岸するから、
 アイツも呼んでまた一緒に釣りに行こうぜって、真顔で言うてましたよ……」

 「ほんまに?。も~~~、ケニーったら……。すぐにでも飛んで行きたいやんけ~~~!」

 ほんとに、
 そんなことが実現できればどんなにいいだろう。
 テメエの稼ぎの悪さを、
 このときばかりは情けないと思った。

 その一方で、
 お愛想でもなんでもいい、
 ケニーにそう言ってもらったことが、
 ほんとにほんとにうれしかった。

 ケニー・エイブラムスから教えてもらったこと、
 その生き方や佇まいから感じさせてもらったこと、

 それらを、
 ぼくはいまもなおジックリ味わいながら噛みしめている。

 あの宝物のような経験を、
 上手に文章にまとめられれば、
 どんなにか楽しいだろうと思いながら、
 あまりにも大切になり過ぎて、
 かえってうまくまとめられず、
 自分の文才のなさに泣いている。

 そんな人が、
 ほんの数日を共に過ごしただけの、
 しかもろくに会話もできない、
 ぼくなんかのことを忘れないでいてくれている。

 切なさと同じくらい、
 勇気や活力が湧いてくる。

 ちいさなアマガエルの、
 かわいい指先と、
 すべてを見透かしたような深い瞳を眺めながら、
 溢れそうになる気持ちをもてあました。

080806 (4)4
 けっきょく、
 この日は家には帰らず車のなかで寝た。

 目にも心にも、
 たとえようもなく最上級に贅沢だった一日の余韻に、
 ずっと浸っていたかったからだ。

 深夜、
 車のなかで寝袋にくるまって、
 きょう撮ったデジカメの写真を見たり、
 薄明かりのしたでフライボックスを整理したりした。

 帰国してから、
 勢いにまかせて巻いた、
 ケニーのソルトウォーター・フライを土台にした、
 あれこれの私家版マス狙いのフライたち。

 そんなフライで、
 もし今日のようなサカナが釣れたら、
 ケニーに写真とフライをドサッと送りつけてやろう……などと夢想するのはたまらなく楽しかった。

 海岸沿いの国道の空き地のむこうから、
 おだやかな波の音が聞こえる。
 カエルたちもさんざめくように鳴いている。
 
 こうしてたった一人でいるけれど、
 すこしも孤独を感じないのは、
 ものすごくシアワセなことだ。

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