BIZENアングラ・アングラーズ
フライフイッシングとフライタイイングに関する話題など
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In the Light
 炎天下の陽の光に照りかえされた真っ白な石くれの河原を、
 しとどに流れる汗をぬぐいながら、
 奇跡のドラマを求めて、
 釣りたい欲望むきだしで、
 ひたすらせっせと歩いて、
 きょうで丸一週間になる。

 その日、
 おなじように河原を歩いていて、

 ふと、
 視界の片隅に、
 おおきな黒い塊が映った……
 
120710(1)1.jpg
 画面左端の真ん中に写っている黒い岩。

 これが20メートルほど手前で、
 サッと視界をかすめたとき、

 もうてっきり……プーさんかと……、

 おかげで、
 もし自分がほんとうにそのような現場に立ちあわせてしまったら、
 どのような心もちになるのか、
 よ~くわかった。

 ほんとにそれまで流れていた汗が、
 サーッと引いたんだよね。

 チビッたやんけ。

 しかしこれは、
 ぼくの「プーさん物語」の序章に過ぎなかった。

 その日も、
 汗まみれのまま、
 この川での釣りの拠点にしているキャンプ場に戻って来た。

 キャンプ場といっても、
 もはや忘れ去られて久しいような、
 森の小道のなかにポツンとあるちいさな広場。

 ここの駐車場に車を泊めて、
 そこで車中泊をして数日経つけれど、
 まったく誰も来なかった。

 きょうもまた、
 駐車場にクルマはとまっていない。
 ぼくの貸し切りのようだ。
 すでにもう我が家のような気分。

 このキャンプ場は、
 かろうじて携帯電話の圏内にはいるようで、
 電話を見ると、
 元フライフイッシャー誌編集長の滝くんから着信。

 難航していた我が単行本の作業を、
 自分の役割を終えると同時に、
 この釣り旅に飛びだした。

 なので、
 なにか問題でも……と、
 少々ビビリながら電話したのだが、
 滝くんはいつものかんじで、

 「いや~~、ハッピータイヤーズ単行本、とうとう刷りあがりましたよ。
 釣りに出てるって知ってたんですけど、見てたら感無量になっちゃって、
 一言いいたくて電話しました。ほんっとおつかれさまでした。
 ありがとうございました」

 「いや~、なにゆうてるねん、それはコチラのセリフやで。
 滝くんと八木くんとデザイナーさんのおかげやんけ、
 ほんまにどうもありがとう」

 ちょっと感極まるかんじもあって、
 ジーンときて、
 大声で熱くてクサいセリフの交換をした。
 まるで青春。
 ちゅうかまんま青春。

 「ゆうとくけど、これゴールちゃうねんで、
 これを足がかりにスタートするねんで」

 「お、それいい!マジそうすっよね!」

 ちなみに、
 このようなこっぱずかしー会話を繰りひろげていたときのワタシのカッコは、
 ウエーダーを脱いでシャツも脱いで上半身裸で、
 下半身は黒いパッチいっちょ。

 みにくい力道山の子…ってかんじ。

 そのカッコで、
 折り畳みイスにのけぞり、
 バカーンと股をおっぴろげて肘かけに載せてお話し。

 そして電話を切り、
 パッチを脱いでフルチンすっぽんぽん。

 シュワーッとするタオルで全身をゴーシゴシ。
 火照った身体がヒヤーッとさわやか、
 すこぶる気持ち良い。

 これ以上はないほどに上機嫌、
 こんなとき、
 鼻歌も出るってもんですよ、

 モスラの歌

 夕暮れまじかの、
 美しい森のなかの、
 ちいさなキャンプ場で、
 ちんこぶるぶるフルチンで、
 モスラ歌いながら、
 全身ごしごし拭いてる中年……。

 そうこうするうち陽も暮れて、
 夜空は満天の星空。

 晩御飯をおいしく食べて、
 歯も磨いて、
 パジャマに着替えてあとは寝るばかり、

 そして至福のひととき……、

 クルマのよこに据えたイスにのけぞって、
 星空のしたで、
 デジカメのディスプレイ画面をピピピとやって、
 きょう撮った写真を眺めること……、

 イスのしたに置いた蚊取り線香から立ち昇る香りは、
 もはや幾千万の香水がもたらす至福をも超えますね。
 この満たされたシアワセもはやプライスレス……。

 と、そのとき!

 駐車場から見ると小高い丘のうえにあるキャンプ・サイトのほうで、
 なにかが歩く気配がして、
 ガサガサって音がした。

 さいしょはいつものシカだとおもって、
 ピーッピーッとか口笛を吹いてみた。
 いつもは、
 暗闇のなかでシカが脱兎のごとく駆け逃げる音がするのだが、

 ところが!

 そのガサガサ音は止まることなく、
 どんどんちかくなってくる。

 おもわず身構える。

 つぎの瞬間!

 真っ暗いキャンプサイトから黒い影がシルエットになってヌーッと浮かびあがり、
 小高い丘の坂をコチラにむかってくだってくるではないか!

 「ちょちょちょちょっと!!ココにおるでっっ!」

 たしか、
 軽いパニックのまま、
 そんなことを口走りながら、
 クルマに飛び込んで、
 バーンッとドアを閉めた。

 そして暗闇を凝視……、
 いままさに、
 ぼくのクルマのよこを、
 なにかそそくさと、
 いたたまれないかんじで、
 通り過ぎてトイレに向かう、
 歳のころなら30代くらいのお兄さん。

 お兄さんたら、
 キャンプ、
 してたのね、
 バイク・ツーリングだったのですね……。

 ぜんぜんまったく、
 つゆとも気がつかなかった。

 こんなにも静かで、
 ちいさなキャンプ場。

 お兄さんたら、
 アタイがここに来てからのぜんぶ、
 ありのままが、
 聞こえていたし、
 見えていたのね……。

 くああああああ……。

 ほんとにまったく、
 ヒグマだったほうがどんなに……。

 身悶えしながら寝袋にくるまった。

 そういえば滝くんと電話していたとき、
 「ところで、釣りのほう、どうなんすか?」
 と聞かれたので、

 「それを今このときこの場でオレに語れというのか滝くん、
 あんたヤケドしちゃうよグワッハハハハハハハハ」


 狂ったように笑ったった。


 お兄さんは、
 「うわ~きょうツイてねえな~、こんなアタマのおかしいヒトと、こんな場所でふたりきりかよ~」
 と思った……かもしれないちゅうか、
 ああ…………もういっそ笑い話にしてくれてますように……。



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 サイズは TMC104SP の6番にマシュマロ・エクステンドボディ。
 全長2センチ半から3センチ弱の、
 ウイングはそれより長く扇状で、
 まるでムッチリボディの「どでかい蛾」。

 今回の釣り旅の「必殺」のひとつ。

 モスラの鼻歌には、
 このような背景があった。

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 ダテや酔狂ではなく、
 このフライのこのサイズとヴォリュームこそが効く、
 と確信して、
 釣る気で流れに叩き込んでいるけれど、

 荒瀬の波と重い流れをおしのけて、
 バンッという衝撃を感じる水飛沫があがり、
 このフライが水中に引きずり込まれる光景は、
 何度体験しても慣れることはなく、
 感動に満ち、
 そして奇跡に思えた。

 120710(2)2.jpg
 と、
 そのような瞬間のあと、
 こんなにも光にあふれ、
 澄みわたった流れのなかを、
 完璧な美しさのオリーヴと紅色のコントラストが、
 強力無比のパワー全開で、
 まるで宙を舞うように、
 ところせましと跳んで走る。

 すべてが、
 なにもかもが鮮烈に脳裏に焼きつくアンビリーバブル、

 おかしくならないほうがおかしい。

 
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