BIZENアングラ・アングラーズ
フライフイッシングとフライタイイングに関する話題など
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郷愁のRenegade浪漫
 20代後半のバブルのころに東京で働いていたとき、
 仕事場の近所のアパレル・ショップのオーナーさんとつるんで、
 よく東北や北関東の渓流に釣りに行っていた。

 その方は、
 良くも悪くも「生まれながらのせっかちさん」で、
 一緒に谷に下りて準備して「さあ釣りはじめましょう」となるやいなや、
 ヨーイドン!と号令がかかったかのように、
 渓流を釣りあがるというよりも駆けあがっていった。
 
 フライを流すというよりも、
 ひとつのポイントをペシペシッと二回くらい叩くと、
 また次のポイント目指してダダダーッと小走りに駆けていった。
 まるでなにかに追われているかのようだった。

 で、
 そんなだから、
 あとからゆっくり釣りのぼってもサカナ残ってんだよね。
 むしろダダダーッといってくれるおかげで、
 その区間は他の人にアタマはねて先行されたりとかしないので、
 コッチは落ち着いてゆっくり釣れるの。

 で、
 あるときその方がなぜかコッソリした口調でこう言っていた。

 「ビゼンちゃん、あのね、ボク、はずかしいんだけどフライはレネゲイドしかつかわないの」

 「え?どして?」

 「だってレネゲイドって浮いてても沈んじゃっても、どっちでもよく釣れるじゃん。
 だからいちいちフロータント塗らなくていいしさ、一回ティペットに結んだらず~っとそれ一本でいけるじゃん」

 このお方は、
 フライの交換はおろか、
 フロータントを塗る手間ヒマさえも惜しんでおったのかと……。

 おもえば、
 その方は仕事も食事も会話もなにもかも、
 「いったいなにをそんなに急かされているの?」
 と問いたいほどにいつも小走りでテキパキしていた。

 なににつけ牛歩の歩みなナメクジ野郎の自分とはまさに対照的。

 そのくせ、
 一緒にいるといつもたのしかった。

 いまも元気でセカセカ走り回ってはるやろか?

 そんなわけで、
 レネゲイドとくれば反射的にその方のことを想う。
 
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 レネゲイド tied on TMC102Y#9

 数ある定番スタンダード・パターンや有名クラシック・パターンのなかで、
 個人的にレネゲイドほどミステリアスなフライはない。

 なんてったって、
 どんなに調べても原作者の名前や詳細がわからない。
 なのでとうぜん、
 その出身地や生まれた背景なども皆目わからない。

 70年代アメリカ中西部を中心に活躍された職業タイヤーのテリー・ヘリクソンによれば、
 「ロッキーマウンテン・エリア」から広がっていったパターンとのことだが、
 それも真偽のほどは定かではない。

 にもかかわらず、
 浮かせても沈めてもイケる万能型アトラクター・フライとして、
 現在でも一部では熱烈な愛好者がいる。
 しかも、
 ピーコック・ボディから容易に連想できるとおり、
 ビートル系テレストリアルとしてだけではなく、
 アメリカ西部などではユスリカが集団もしくは何匹かかたまっている状態を表現したクラスター・パターンとして、
 そのようなハッチ・マッチ・パターンが雑誌や本などで取り沙汰されるずっと以前から、
 知る人ぞ知る必殺クラスター・パターンだったそうな。

 そういえば30数年前の駆け出し時代、
 「レネゲイドは蟻が二匹向かい合わせにくっついて抱き合いながら流れている状態のフライなんだよ」と教えられて、
 なるほどー!といたく納得して感動した思い出がある。

 またさらに!
 NZでは水面膜の下にぶらさがるようにして、
 水面付近を移動しているスネイル(小型の巻貝)のイミテーションとしても紹介されていた。

 そしてまたさらに、
 アメリカ西部の激流の深瀬を釣るためにティペットに重いオモリをかませた、
 超ヘビーウエイト・ニンフをつかったアウトリガー・ニンフィングの伝道者チャック・ファザギルがこよなく愛用したニンフ?
 のひとつにもレネゲイドが取りあげられていた。

 まだまださらに!
 やはりアメリカ中西部のスチールヘッド用ウエットフライのクラシック・パターンにもレネゲイドが挙げられていた。

 このように、
 単によくある万能型アトラクター・フライとしてだけではなく、
 個々の解釈や釣り方やつかわれる状況によって、
 ドライとしてもウエットとしても、
 果てはウエイテッド・ニンフとしても、
 さらにはマッチ・ザ・ハッチ・パターンとしても、
 シークレット・ウエポン的必殺としてつかわれてきたレネゲイド。

 そのキー・ポイントは、
 見たまんまピーコック・ハールのボディと、
 そのボディ両端に茶色と白という対照的な色合いのハックルを配したことだろう。

 そしてレネゲイドの色調を見てハタと気がつくのは、
 そのフォルムはまったく異なるけれど、
 配色はあの不朽の名作フライ永遠のスタンダードの王様コーチマンとおなじではないか。

 いうなれば、
 コーチマンにつかわれた純白のダッククイル・ウイングを、
 きっとおそらくフライの耐久性や使い勝手を向上したい目論みで白いハックルに変更してみたけれど、
 それじゃあ肝心の茶色のハックルはどうすんべ?
 ってことになり、
 そうだイイことかんがえた、
 茶色のハックルはフライのオケツのところに巻きゃあいいじゃん……、

 と、
 そのような単純な思いつきだったのかもしれない、
 巻かれた当初はたんにコーチマンのヴァリエイションのひとつだったかもしれないレネゲイド。

 だが、
 「誰もが効くと認めざるを得ないコーチマンの黄金の配色」
 このフライの本質にさえ迫る不滅の色調を、
 このようにダブルハックルにアレンジしたことで、
 そこに写実的ではなく印象的な虫っぽさファジー感も強調されて……そりゃ釣れるって、
 効かないわけがないでしょ。

 ではなぜ、
 こんなにもシーンに浸透したフライの原作者や出自が不明なのか?

 これはもう「フライフイッシング七不思議」の筆頭としかいいようがない。

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 ちょっと話しは脱線して、
 通常の渓流にてドライやウエットとしてレネゲイドをつかうなら、
 個人的にこのように巻いてますヨ、
 というちょっとしたワンポイントを。

 まずレネゲイドのボディ末端にアクセントとして指定されている
 ゴールド・ティンセルのティップについて。

 オリジナルはフラットもしくはオーバルのティンセルをこの部分に数回巻くのが基本なんだけど、
 そうすると、
 このキラメキがものすごく目立つ。
 それがときとしてすごい違和感に映る。

 なので、
 個人的に安物のビニールなペラッペラのフラットティンセルを、
 フックシャンクにグルグル巻くのではなく、
 このようにスレッドで巻き止めるだけにして、
 その余りをボディ末端にほんのすこしだけ覗かせておく。

 こうすると、
 このヒカリモノが不自然にギラギラ輝きすぎるのではなく、
 あくまでも控えめにチラチラッとキラ見え。
 フライ全体に調和して、
 いかにも虫っぽく映る。

 また、
 ほとんど手間がかからないので巻くうえでの作業効率もあがる。

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 切れやすいピーコックハールの補強を施しているところ。

 ワイヤーやティンセルの類をリビングするのではなく、
 ピーコックのボディを巻きとめたら、
 ナノシルク・スレッドなどの切れにくいPE系スレッドを、
 ボビンをギューンと回して撚りをかけて細くして、
 ピーコックのボディのうえにほとんど無造作に一往復させてリビング状にグルグル巻きにしている。

 写真はスレッドをグル巻きしながらボディのうえを往復させたところだけど、
 こうしてみてもハール・ボディに変化は見えず巻いたことが分からないでしょ。
 しかもピーコックのボディが完全に固定されて最強の補強になっている。

 さらにしかもチョー簡単で手間要らず。

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 浮かせても沈めてもつかいたいレネゲイドのハックルには、
 なんてったって硬すぎず柔らかすぎないホワイティング・ヒーバートのヘンネックがぼくのお好み。

 ボディ末端の上部にほんのかすかに覗いている、
 金色のティンセルにもご注目を。
 こんなにちいさくチョロッとチラッと見えているだけで充分。
 このテのフライはモロ見えよりもチラリズムこそがミソ。

 とまあ、
 そんなレネゲイドなんだけど、
 この名前の意味をひもとくと、

 Renegade(=反逆者、裏切り者)
 とくにキリスト教からイスラム教に転向改宗した背教者を指して、
 「この裏切り者め」と蔑んで呼ぶ言葉ならしい。
 
 モノモノしくも血なまぐさくキケンな響き。
 なんかよくわかんないけどヤバくね?というかんじ。

 で、
 ここからはワタクシ十八番でもあります夢想妄想が飛躍するわけですが、
 名も知らぬ原作者が、
 このフライにこのようなネーミングをしたのには、
 はたしてどのような意図があったのだろう?

 きっとおそらくこのフライが世に知られたであろう1900年代前半の時代、
 フライフイッシングは今とは比べ物にならないくらいに紳士であり名門であり厳格であり格式であり様式であった。
 (それが悪いということではまったくないので念のため)

 「あの由緒正しきコーチマンを、このように改悪するなんてけしからん!まかりならん!」
 という声があったにちがいない。
 ないわけがない。
 
 出る杭は打たれまくる、
 というのは世の常ヒトの常、
 というよりもかの時代はもっと陰険かつ辛辣だっただろうことは想像に難くない。
 それが証拠に歴史をひも解けばそのようなストーリーはいくつも見つかる。

 そしてレネゲイドという名前のフライ。

 「おまえらなあ、クッソ偉そうにくわえパイプでボロカスゆうてくれるけど、
 本家コーチマンよりこっちのほうがよっぽど巻き易くて丈夫でよう釣れるやんけ、
 伝統にがんじがらめに縛られる筋合いはないんじゃ~」

 「オレはなあ、フライフイッシングの反逆者なんじゃ~~!!」

 などという一幕があったのかどうかは知りません。

 しかし、
 巻き人不詳なこのフライに、
 この時代にこのような意味の名前が冠されているという、
 そのことにワタシはグッとくるのです。
 アレコレと想像を膨らませずにはいられないのです。
 浪漫ひとしおなのでございます。

 と、
 いまやお馴染みのフライというよりも、
 もはや時代に取り残されて忘れ去られそうになっている一本のフライ、
 しかしその一本のフライをとおして、
 歴史を知り想いを巡らせ想像を膨らませ、
 そこから創造の喜びや醍醐味をひろげてみれば、

 そのフライでたんにサカナを釣りあげるだけではなく、
 そこに至るまでの過程にも、
 たまらない「お楽しみ」があるということに共感していただける方に、
 ぜひともお勧めしたい本を一冊ご紹介です。

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 私の敬愛して止まないフライフイッシング・ヒストリアンでありイノベーターであり、
 そして今なお他の追従を許さない最高のフライフイッシング・ライターであらせられる、
 ダレル・マーティンの集大成的著書「フライフイッシャーのための図解付き辞典」

 辞典といっても、 
 月並みな底の浅い単語用語集ではありません。

 アルファベット順にさまざまな用語や事象を解説しているので、
 便宜上辞典という表記になっているけれど……、

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 しかしてその内容は、
 ダレル・マーティンおじさんの汲めど尽きない知識と経験の泉から、
 おもしろそうな事柄をランダムにしかし抜け目なく、
 歴史や古典から最新事情までを、 
 簡潔かつ面白く愉しく紹介しながら解説してくれている、
 フライフイッシングのトリビアの泉的な蘊蓄満載の肩の凝らないオモシロ本です。

 これがまたさあ、
 なんちゅうかたまらんくらい示唆に富んでいるしオシャレだし英語表現むずかしくないし、
 単純にめちゃくちゃおもしろい。

 2000年に刊行されて以降、
 もうず~っと手元に置いて愉しんでいるけれど、
 じぶんのそのときの経験や興味に応じていまだにこの本から発見と学びが見つかる。
 きっと、
 これからもず~っと色褪せずイロイロと学ばせてくれることでしょう。

 フライフイッシングの「深さ」をやさしく愉しく伝えてくれる本です。

 
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