BIZENアングラ・アングラーズ
フライフイッシングとフライタイイングに関する話題など
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北海サファリ
 ものすごい体験をした。

 おとつい、
 友人と二人ですこし遠出をして暗くなるまでみっちり釣って、
 帰宅するのは面倒だしたまには山奥で寝たいなとおもって、
 友人と別れてから釣り場の近所にあるキャンプ場跡みたいなところに行った。
 ひさしぶりだ。

 見事な名月の夜で、
 なぜか夜が更けると風が強くなった。
 月明かりに照らされて、
 影絵のようなシルエットになった山の木々がザワザワ揺れているのを、
 飽きずに眺めてからクルマに敷きっぱなしの万年シェラフにもぐってぐっすり寝た。

 翌朝、
 といっても正午まえくらい、
 太陽はカッカと照りつけ初夏をスルーしていまやいきなりの猛暑酷暑。
 当日の当地の気温35度越えて・・・なんやそれ?

 道の両側には背丈ほどもある雑草が生い茂っている。
 その向こうがわには広大な牧草地が広がっていて、
 そのはるか向こうが深い森の樹海につながっている山間の小道。
 周囲何キロかは民家もなんにもない。

 その小道を、
 ガンガンとレゲエを爆音で鳴らしながら、
 窓全開で風を受けて、
 チンタラチンタラテレッテレとゆっくりクルマ走らせていた。

 この日は、
 カンカン照りの真昼間にもかかわらず、
 道のカーブを曲がるたびに、
 小道でたむろしていた鹿やキツネやタヌキや兎の小動物オールスターズがワラワラ逃げまどい、
 「さすが北海サファリや」と愉快だった。

 この小道は、
 深夜に走ろうものならいつも道のそこかしこオールスターズだらけでまともに走れないくらい。
 なので、
 個人的に北海サファリと呼んでいるお気に入りの山道なのだ。

 それはおいといて、
 「くっそあっち~」とウダりながらテレテレ走っていたとき、
 とあるカーブをまがると、
 そこにでっかい角が生えそろいはじめている雄シカが道の真ん中でボ~~~ッとしていた。
 ゆっくり近づくとノタノタッと雑草の茂みに消えた。
 ものすごい暑そうでグデグデで笑った。
 陽の光に反射して琥珀のように輝いている体毛にうっとり見惚れた。

 ケモノも鳥も虫もサカナも命あるものはすべて、
 陽の光の下でこそ本当の美しさを発揮する。
 
 これは、
 フライタイイングから学んだ自然界の摂理であり真実だと確信している。

 で、
 もうすっかり愉しくなって、
 弾んだ気持ちで
 「さあ次はなんや?」
 と期待しながらカーブをまがると、
 運転席側の茂みからなんと!ドドドッとヒグマが飛び出してきて道をわたり、
 一瞬で反対側の茂みに消えた。

 ほとんど徐行運転なので、
 いきなりの出現にもさほどあわてることなく、
 むしろすごい落ち着いていてキキッとブレーキを踏んでスピードをゆるめた。

 そのときは、
 それほど巨大には見えずまだ若いヒグマかなとおもった。

 とはいえ、
 でっかいケモノが草の茂みにド~ンと身体ごと飛び込んだように見えたのに、
 そういえば草がほとんど揺れていない。
 それがすごく印象的だった。

 で、
 森の王様の唐突なお出ましに超ラッキーやと大喜びしながら、
 「うおおおうっ」
 と興奮しつつ視線はクマが消えた方角に……、

 そしたらそのとき、
 視線とは反対側のヒグマが飛び出て来たほうの雑草の茂みのなかから、
 小さな黒いものがポーンと飛び出してくるのがチラッと視界を掠めた。

 ウワッ!とおどろいてメッチャ急ブレーキ。

 間一髪やった。
 ぶつからなくてほんとによかった。
 
 母グマのあとを追って飛び出してきた小熊が、
 クルマの真ん前で腰を抜かしたようになって、
 ペタッとへたり込んでしまった。

 そのときは、
 余裕しゃくしゃくで、
 「うわ~、びっくりしたやろな~、かわいそうに。はよお母さん追いかけていきや」
 みたいな慈悲と慈愛に満ち溢れていた。

 が、

 グギョギョ~~~~~~~~~~~~
 そんなかんじやった。
 いきなり小熊があらんかぎりの甲高い声で吠え叫んだんやわ。

 そのつぎの瞬間、
 バッサバサバサーッとぶっとい雑草をバッキバキなぎ倒して、
 骨の髄から怒り狂った形相の母グマがドンッ!と茂みのなかから躍り出てきた。
 そして小熊のまえで仁王立ちになって立ちはだかった。
 さっきあわてて道を渡っていったときにかんじた大きさどころではなく、
 立ち上がった母グマは大げさに言わせてもらうと3倍くらい巨大に映った。
 
 で、
 グワッとたちあがったヒグマの巨体がバーンと弾けるようにひるがえって、
 一瞬で運転席の側に母グマがせまってきた。
 それで、
 ボクを威嚇してる母グマを運転席からちょうど見下ろすようなカッコになった。
 全身の毛が逆立つようにふくらんでいて、
 ハラワタが揺れるというか心臓をギュッと握られるような重低音の唸り声がビリビリ周囲に響きわたった。
 まるで強靭で鋭利な武器のような犬歯?がズラッと並んで剥き出しになっており、
 歪んだ口元がブルブル震えていた。
 このときほんとに一瞬やとおもうけど目と目がビタッとかちあった。
 殺意のこもった視線と空気がのしかかってくるようだった。
 本気で「殺られる!」と本能の奥底で感じた。

 で、
 母グマがグワッと身体を起こして、
 目と鼻の先までせまってきて、
 なんちゅうか鼻をつく臭いというか気配というか、
 「匂い」なのか「気」なのか、
 よくわからないケモノ臭が塊のようになってボクの鼻孔を突き抜け、
 脳天に直接ガッツーンとくるような圧力をモロに受けてウッとむせかえったのと、
 おもわずクルマをバックさせたのがほぼ同時やった。

 クルマの窓に手をかけようとした母グマが地面に手をついて、
 クルマを追いかけるような、
 追い払うようなそぶりで威嚇してきたけど、
 すぐ追いかけるのをやめてくれたので、
 10メートルかな?
 それ以上かも?
 もうわからん。
 けど、
 母グマの表情は鮮明にわかるくらいの距離で止まったんやわ。

 そしたら母グマがグワーッと立ちあがって、
 そのままこっちの様子をうかがってるというか、
 しばらく睨みあいになった。

 
 どのくらいそうしていたのか、
 もうそういう時間感覚がまったくなくなっていて、
 視線と意識は母グマの表情の変化だけに集中していて……、

 なんでかというと、
 あとからつくづくおもってんけど、
 母グマはこの間クルマそのものではなく、
 クルマのなかにいるボクをちゃんと認識していた。
 そして、
 ず~~っとボクのことを睨みつけてた。
 
 どうなるんや?

 とおもってからも、
 だいぶそのまま睨みあっていたようにおもうんやけど、
 あるとき、
 母グマの視線がチラッと動いたような、
 ボクから注意を逸らしたような、
 そんな一瞬があって「あっ」とおもったつぎの瞬間、
 それまでものすごい巨体で仁王立ちになっていた母グマが急にしぼんだようになって地面にパッと前足をついて跳ねあがると、
 忽然と視界から消えた。

 え?

 とおもったときには、
 牧草地帯を走り抜けて、
 はるか向こうの森のなかに脱兎のごとく駆けながら消えていく小グマと、
 そのあとをまるで宙を飛ぶようにグングン追いかけていく母グマの後ろ姿が見えた。

 いまになっておもうに、
 母グマは子供が安全な場所まで逃げるのを待っていたのかもしれない。
 で、
 それを確認したので無用な争いを避けてくれたのだろう。

 心臓がドッドッドッと早鐘のごとく鳴りやまず、
 汗ビッショリかいて、
 しばらくそのまま放心状態。

 かんがえてみれば、
 運転が下手でヘタレなじぶんが、
 この小道を後方確認もせずいきなりバックして走ってよくぞ何事もなく……、
 あらためて心底ホッとした。

 ってゆーか、
 ず~~~っと窓全開のまんまだったことに、
 落ち着いてから気がついた。

 そして、
 この間ずっとズッカンズッカン大音量で鳴り響いていたレゲエ・ミュージック。

 してみると、
 おそらくあの親子はレゲエを聴いた世界で初めての野性のヒグマなのか?、
 などと感慨深くもあったが、
 あの遭遇の最中、
 まったくなにも聴こえなかった。
 無音。
 まるで無音映画のコマ送りのように音のない場面が刻々変化していくような感覚。
 そしてそんな場面のひとつひとつが、
 ぼくの魂のなかに鮮烈に焼き付けられていった。
 とても非現実的……。
 そのなかで、
 子グマの悲鳴や母グマの唸り声と息遣いだけが激烈な存在感でぼくの耳と脳髄の奥に残響としてのこった。

 自分にも、
 そしてなによりもなによりもあの親子に、
 何事もなくてほんとによかった。

 一歩まちがえれば、
 大惨事になるところだったかもしれない。

 そうなったらあの親子がまず不幸になる。
 それはいやだ。

 そして、
 惨事になれば自分は自業自得としても、
 周囲の方々に迷惑と心配をかけてしまう。
 それだけは避けたい。

 だが、
 無事にやり過ごすことが出来て、
 それゆえにこの体験は一生忘れ得ない貴重で美しい思い出の財産として変換され、
 こうしてありのままを書き散らせる幸運に感謝したい。

 かつて、
 これまで何度か遭遇したヒグマたちは、
 クルマのなかから見たときも河原で出会ったときも、
 すべて駆け逃げていく後ろ姿ばかりだった。
 もちろんそれらの体験も深く感動した。
 だが、
 本気で怒り狂ってパニックになったヒグマの表情をまじかでまざまざと見てしまった。
 あのときに感じた「人智叡智などかるく突き抜けた恐怖と畏怖の感動」の念を、
 最近ちょっと調子こいていた自分への戒めとして、
 けして忘れないようにしたい。
 自然のなかではいつも謙虚であろうとあらためて誓った。

 空気そのものが光り輝いているような、
 うんざりするほど透明な北国の夏空のした、
 白昼堂々のできごと。

 
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