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BIZENアングラ・アングラーズ
フライフイッシングとフライタイイングに関する話題など
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輪廻転生
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 サヨナラのまえに手尺でパパッとはかって60センチにすこし足りないかんじ?
 泣きのロクマルってとこ。
 
 ひっきりなしに釣り人が往来する人気河川にもかかわらず、
 魚体に傷や欠損がまったくない完璧無比のメスのニジマス。
 も~たまりまへん麗しのベッピン絶品筋肉マダム。

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 この場所にいた。

 一見しただけだと素通りしてしまいそうな、
 見た目いかにもショボイ岩盤滑床の瀬にいた。

 だが、
 マダムがここを根城にしていたのには、
 ちゃんと理由があった。

 対岸の雑木生い茂るバンク際が、
 畳二畳分くらい岩盤がガバッとはがされたように深みになっていて、
 川底には大小の岩や石が転がっている。
 そして、
 そこに適度な流圧の流芯が流れ込んでいる。
 そのため、
 ここを流下する昆虫たちは、
 ほとんどこの深みを通過することになる。
 しかも、
 雑木林のバンク際は深くえぐれていて、
 剥き出しになった木の根っこが張り巡らされた洞窟のようになっている。

 狭い空間ではあるけれど、
 巨体を忍ばせる深みや障害物の隠れ家あり~の、
 エサは追わずとも勝手に目のまえに流れ込んでき~の、
 釣り人はほとんど素通りし~の、
 彼女にとっては理想の棲家だったにちがいない。

 が、

 今年7月半ばのこと、
 そんな彼女の安住の地に、
 下心ムンムンの邪悪な魔の手が忍び寄ったのじゃ。

 上流にある人気ポイントを目指して、
 この瀬をザバザバと急ぎ足で歩いていた魔の手は、
 ふとこのバンク際が気になった。
 それで、
 行きがけの駄賃とばかりに、
 なんの気なしに、
 まったく期待もせず、
 ダラけたムードで、
 2Xのティペットに結んでいたフォーム製の特大フライを、
 ポーンと投げ込んだのじゃった。

 重量級のでっかいフライがベチャッと着水したその刹那、
 揺れ流れる波間のしたで、
 グラッと赤紫色に見えたでっかいのがフライにむかって浮上しそうになったかとおもうと、
 スッと魚体をひるがえしてまた深みに消えていった。

 フライを投げ込んだ立ち位置がすこしでもちがっていたら、
 光の加減や角度で水中のその魚体は見えなかったかもしれない。
 ビミョ~なかんじだった。

 魔の手はつくづく幸運だった。

 …おるやんけおるやんけおるやんけ!!

 しかも、
 サカナのその反応と挙動から察するに相当スレてるっぽいけれど、
 反面かなり喰い気が立ってるっぽい。

 イケル…コレハイケル…ゼッタイイケル…キットデル…

 アレハゼッタイデル!

 確信した。

 そして、

 …まず、
 ここからフライを投げるよりも、
 あっちに立って、
 あそこに投げて、
 フライをこう流して……、

 …さらに、
 掛かっても下流の轟々流れる荒瀬に下られて走られたらおしまいだ。
 きっと岩盤のカドでティペットが擦り切れるか、
 激流に揉まれてバレてしまいそう。
 それはなんとしても阻止したい。
 そのためには、
 あ~してこ~して掛けたらあそこに走ってってサカナを上流に追いやって走らせて……、

 めまぐるしく脳内シミュレーションしながら、
 ジリジリと立つ位置を変えティペットを4Xに変え、
 フライのサイズも落として地味目なのに交換した。

 で、
 一投目。

 岩盤のくぼみにフライが流れていくと……、

 水面のフライにスーーッと一直線に浮かびあがってきた巨体が、
 迷うことなくグボンッと鈍い水音を立てて、
 もうなんとも理想的なかんじでフライを吸いこんだ。

 フライに出た瞬間、
 喉元奥にがっぽり飲み込まれるのがわかるようなかんじ。

 よっしゃ!こ~れはバレない絶対バレない。

 掛かった瞬間、
 二度三度ダッダーンダッダーンッ!と魚体をくねらせながらド派手に跳んだけれど、
 ハリが外れる気はまったくしないので、
 めっちゃ強気の勝負。

 すぐさま下流に回り込んでザッバザバ水を蹴散らしてサカナを上流に追いたてた。

 あっぱれ素晴らしい闘いだった。

 いつもはけして意のままにはなってくれない、
 高根の花と恋焦がれる絶倫筋肉美女をあいてに、
 狙い定めた細心のアプローチも、
 掛かってからの丁々発止なファイトも、
 すべてが計算ど~り!ぱーふぇくと!!

 こんなこと、
 そうめったやたらとあるもんじゃない。

 ムッハーッてかんじ。

 天狗の鼻はにょきにょき伸び放題。
 ボクはいま、
 調子こきまくりのピノキオ状態。

 ゼペット爺さんに叱られそうだ。

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 ほんとにありがとう。

 ヒグマの金毛だけで巻いた、
 我が最愛の、
 絶大な信頼の特製ドライフライが、
 美熟女の口許で鈍い金色(←ココ、キンイロと読むんやなくてコンジキと読んでくれたまえ)に輝いている。

 たまらんなあ……。

 ほんとにほんとにありがとう。

 万物の長すべてに感謝。
 ありがとうありがとう。

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 気持ちがおちついて、
 ふと我に返ってみれば初夏の季節。

 命あるものすべてが輝き、
 生と性を謳歌する初夏の季節。

 深い森のなかを流れる美しい川には澄んだ水が流れ、
 さまざまな鳥たちが盛んに歌いさえずり、
 大中小の蟲どもはひっきりなしに飛び交い、
 木々の緑は鮮やかに色濃く我が胸に迫ってくる。

 すばらしいな美しいな……。

 満たされすぎたココロを持て余しながら、
 夢遊病のように、
 野性の自然にこのまま埋もれていくかのように、
 川のほとりをただそぞろ歩いた。

 もはや釣りなんかそっちのけ。
 きょうはもう充分なのです。

 ワタシ、
 これいじょう釣っちゃったら、
 もうどうにかなっちゃいそう……。

 世俗に戻れなくなったら、
 ボク困っちゃうワハハハハハハ。

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 鳥のさえずりに耳を澄ませながら、
 この岩壁をゆっくり歩いていたときだった。

 木の根っこのところから、
 なにか小さな茶色いものが、
 カサカサと音を立てて、
 崖をころがるように落ちてきた。

 さいしょは落ち葉かとおもった。

 のだが、
 それは小鳥の雛だった。
 幼い未成熟な翼をひろげ、
 ふるえるようにもがきながら、
 崖から落ちてきた。

 …うわ~かわいそうに…

 そうおもって、
 頭上を見上げると、
 目と鼻の先の枝にオオルリ(←wiki)がいた。

 …うっわすげえ!…

 当地ではさほど珍しくはないという話しも聞いたが、
 じぶんははじめて見た。
 いつか見てみたいとおもっていた憧れの小鳥。

 きょうはなんと幸運な日であろうか。

 これ以上はない幸運をかみしめているときに、
 シアワセの青い鳥がすぐ目の前で盛んにさえずっているなんて。

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 だが、
 様子がへん。
 
 目のまえに自分がいるのに、
 まったく逃げない。
 というよりも、
 ぼくの存在に気がついていないかのようだ。

 すぐそこの木の根っこや枝に飛び移りながら、
 さえずるというよりも、
 甲高い声で鳴き叫んでいる。

 そして、
 数羽のオオルリのメスとおぼしき茶色の小鳥もまた、
 その周囲でさわがしく鳴いていた。

 なんだなんだ?

 不思議におもって、
 その様子を眺めていたとき、
 視界の隅に映っていた木の根っこが、
 ズルッとうごいたような気がして、
 ハッとそちらを注視すると、
 そこに大きなアオダイショウが這っていた。
 こんな太くて長いヘビは久々に見た。

 とつぜん崖から雛鳥が落ちてきたこと、
 オオルリが逃げもせず鳴いていること、
 これで謎は解けた。

 オオルリの雛を襲うべくジリジリ巣に近づいているアオダイショウ。
 それに驚き恐怖した雛鳥が巣から転がり落ちてしまった。
 親であるオオルリは盛んに警戒音をだしているが、
 アオダイショウのまえにはなすすべもなく……。

 これはたいへん、
 すぐにヘビをどかしてやろうと、
 アオダイショウに近寄って手を伸ばした。

 が、
 ズリッズリッと木の根っこのうえを這うアオダイショウを見た瞬間、
 掴もうとした手をおもわず引っ込めてしまった。

 マムシなどの毒蛇は別として、
 ヘビを掴むことなんか自分にとって子供のころから造作もないことだった。
 むしろヘビを見つけたら嬉々として捕まえたい爬虫類大好きっ子。

 だが、
 オオルリ同様に、
 ぼくの存在などまったく無視して、
 ゆっくりと這っていくこのヘビを捕えることは躊躇してしまった。

 まじまじとヘビを見た瞬間、
 じぶんの奥底にあるなにかが射抜かれてしまったようだった。
 魂が抜かれてしまったようだった。
 心底ゾクッとくるものがあって立ちすくんでしまった。
 触れられない…とおもった。

 それほどまでに美しいとおもった。
 
 いや、
 その表現は適切ではない。

 いつ出会えるとも知れない久々の獲物をまえにして、
 興奮の極に達しているアオダイショウの身体は、
 深く暗い玉虫色にギラギラ底光りしていた。

 その輝きはどこまでも妖艶で、
 得体のしれない妖気と精気に満ち満ちていた。

 山仕事にいそしむいにしえの昔人が、
 伝説の大蛇をまえにして、
 大蛇が発する妖気のオーラにあてられて気がふれてしまった、
 などという昔話の源泉を見た気がした。

 おとぎの世界に迷い込んでしまったようだ。

 もはや、
 大切な雛をアオダイショウに喰われるしかないオオルリも必死。
 だが、
 アオダイショウもまた、
 生きるために必死だった。
 
 そんな光景を、
 生きるのにまったく必死ではない自分が、
 なにもせず、
 どうすることもできず、
 ただ、
 呆然と眺めているだけ。

 外の世界など、
 なにも知らなかっただろう雛鳥が、
 ぼくの足元で立ちすくみ、
 ただ震えていた。

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 そして、
 夏の陽が、
 ゆっくり暮れていった。

 いつもとおなじように。


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